9章:たくさん奪うもの
私は泣いた。もうこれ以上、私から大事なものを奪わないで。
天葉と言い合いになった次の日、私は学校を休んだ。
そしてその次の日、学校に登校した私に突きつけられた現実は、あまりにも残酷だった。
ー天葉が自殺した。
クラスメイトは騒然としていた。天葉が亡くなった悲しみよりも、非日常が訪れた事による興奮が滲み出ていた。
私は即、教室から荷物を持って飛び出した。その日は宇野先生から帰宅を勧められたので、お言葉に甘えて帰らせてもらった。
神様なんていない。
幸せを呼んでくれる神様はこの世にいない。
ーたくさん奪う神様がいるだけだ。
家に着くと、いつもの癖でポストの中を覗いた。
「本田 光羽 様」
私宛の郵便が届いていた。今どき手紙なんて珍しい。
私が訝しげに思いながら、手紙の差出人を確認すると「荻原天葉」と記されていた。
ー心が凍りついた。
家はマンションなので、裏の非常階段を数段登った場所で腰を下ろした。
手紙は2枚。今までに見た事のないくらい丁寧な字で書かれていた。
「光羽へ。
光羽がこれを読んでいる時、俺はもう死んでいます。
まず初めに謝りたい事があります。
傷つけてゴメン。たくさん光羽にはヒドイ態度や言葉を浴びせました。
でもこれだけは言えます。光羽と過ごせた時間は俺にとって、本当に幸せでした。
出来ればもっと一緒にいたかった。あの時間に戻れたなら。そんな事ばかり考えていました。
そして次に光羽に隠していた事を話します。
俺は光羽が好きでした。いや、今も大好きです。
親愛の意味ではないです。恋愛的な意味で光羽が好きです。
でも伝えられなかった。俺の他にも光羽を愛していた人がいたから。
その人と俺じゃあ、どう考えても俺は勝てません。
だって気持ちの純粋さが違うから。純愛だったんだよー笑人は。
光羽って笑人の事が好きなんだろ? 今でも。
笑人も光羽が好きだったんだな。 知ってたか? 知ってたよな。
だから俺は、笑人の思いも受け継いでたんだよ。
笑人が生前、俺に『俺が死んだら光羽と仲良くしなよ』って言ってきたんだ。
『死んだら』なんて縁起でもないって思ってたら、本当に死んじゃった。
俺は、笑人の想いを踏み躙らないように光羽に接してるつもりだったけど、光羽はどう感じたかな?
あと小説。趣味で小説書くなんてすごいよ。
出来るところまでやってみて。結果が出ても出なくても、俺は光羽を応援し続けるよ。
笑人と一緒に。
最後に。光羽に出会えて本当に良かったよ。
これからも、耐えられるか分からないくらい辛い目に遭うかもしれない。でも、どんなに辛くても、生きてほしい。
先月、光羽がメールで「死のうと思った」 って言ってたよね。
でも死にたいくらい辛かったなら、生きていて良かったって思うことを見つけないと。
自殺した俺が言う事じゃないかも知れないけど、覚悟があれば生き抜く事だって出来るから。
光羽に出会えて、光羽を好きになれて本当に幸せでした。 天葉」
私は手紙を封筒にしまった。
目からは大量の涙が溢れ出ていた。
今日は何度も泣いている。もしかしたら自分が言ってしまった言葉が天葉が、天葉を自殺に追いやったのかも知れないと考えてしまっていた。
でもこの手紙を読んで違うと分かった。
天葉は、たとえどんな未来が訪れていたとしても、死ぬつもりだったんだ。
私に希望を託してー笑人の想いを受け継いで。
私は、笑人と天葉の想いを否定しちゃダメだ。
笑人に「生きる」と誓った。天葉に「変わる」と誓った。
私は2人に生かされてるんだ。
残酷な未来ばかり訪れる事を悲観しちゃダメだ。
2人が残してくれたものから、逃げちゃダメだ。
ー私が何をするべきか、もう分かる。
これから毎日学校に通う。そして本を書く。
内容は笑人と天葉の本。それぞれ1冊ずつ。
私のように残酷な未来が訪れて苦しんでいる人を、1人でも多く救いたい。
それが私が見つけた「生きる意味」だー。
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