6章:残酷な未来は

ー光羽は強い人だ。

今までに辛い経験をたくさんしているのに、弱音も吐かず、ひねくれる事もなく生きている。

死のうと思った、とメールでは言っていたが、それでも今は生きてる。

このまま生きることを選んでほしい。たとえ、どんなに辛くても死なないでほしい。

俺と「同じ選択」はさせないー。

明日、光羽に会う。光羽に知られないように、彼女に託す。

ー俺の、命をかけて。


   ※ ※          ※ ※


小学校6年生の時、俺はある予知をした。

数年後に自殺する、というなんともあり得ない予知だ。

自殺は自分の意思でするものだ。だから、たとえ予知したとしても、その未来が来るかどうかなんて、その未来の自分にしか分からない。

そもそも予知なんてしてしまったら、その未来を回避しようとするはずだ。

だから、こんなの嘘だ。去年負った傷がまだ尾を引いていて、現実から目を背けるための妄想をしているだけだ。

そう思いたかった。

でも本当だった。俺は「ある目的」を果たしたら自殺する。

それに気づいたのが、光羽を好きになった瞬間だ。

光羽の「光」を封印したのは、俺の自殺までの目的が「光羽を救う」ことだったから。

俺が光羽を拒絶して見ないようにすれば、そんな未来が来ることはない。来たとしても、違った方向に反らせると思ったのだ。

でもダメだった。

光羽が何度も何度も頭に浮かび離れなかった。忘れようとしても、何かの拍子に思い出す。

「好き」が徐々に「嫌い」に変化したのはその頃だった。自分が自殺するかも知れないなんて認めたくなかった。それに比例して「光羽に何かを託したら自殺していい」という気持ちも倍増した。

当時は、その「何か」なんて分からなかったし、なんでこんな気持ちになるのか自分でも理解出来なかった。俺は相当頭がイカれて、もう治らないかも知れないって悩んだりもした。

でも去年、光羽は不登校になった。そしてそれで苦しんだ光羽を救う事が目的なのかも知れないと、疑心暗鬼になりながらも考えていた。

しかし違和感が生まれた。だって光羽は、イジメられた事に関して悩んでいるような感じではなかった。

数週間前に、放課後の校舎で泣いていた時もイジメられた事を普通に話してくれた。

もしかして…。ある推測が頭に浮かぶ。

でも、もしそうなら光羽は…。

俺は、この世界を呪った。光羽を、そして「彼」の気持ちを踏み躙るこの世界をー。

光羽はー笑人が好きだったんだ。

去年、笑人が俺に「光羽と目が合った」と自慢して来たことがあった。

当時は、適当に聞き流していたが、今となれば不自然だ。

ー笑人は、ただ片思いしているだけの相手と何かあっても、勝手に舞い上がって自慢するようなタイプではない気がする。

ーそれこそ両思いだったり、付き合っている相手との事を、少し誰かに話すくらいのような感じがする。

つまり笑人は、光羽が自分を想っていることを分かっていたのだ。

だから俺に自慢してきたのだ。そして、笑人が亡くなったことは、笑人と仲の良かった人や特別な人にだけ伝えられたらしいー。

もし、笑人の「特別な人」の中に光羽が入っていたとしたら…。

光羽は笑人が死んだことを知っている。そしてこの前泣いていたのは、笑人の事を思い出して泣いていたとしたら…。

このままだと、光羽は壊れてしまう。

クラスでイジメに遭って友達も減ったはずなのに、好きな人まで死んでー。

そして、もうすぐ俺も死ぬ。しかも自殺だ。

「ふざけんなよ…」

俺はポツリと呟いた。心が憎しみで燃えていた。

今、この世界の創設者が現れたらぶっ殺したい。

ー光羽を幸せにする世界しか、俺は許さない。

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