廃嫡王子

仲村 嘉高

廃嫡王子

 



「お前との婚約を破棄する!」



 俺の人生が変わったのは、この言葉が始まりだ。


 俺は小国ではあるけれど、それなりに裕福な国の王族として生まれた。

 第一王子だったから、15歳の誕生日に王太子となった。


 婚約者は、10歳の時に公爵家の令嬢に決まった。

 この女は、生まれた時から王妃になる事が決まっていたらしい。




「なぁ、またあのGが出たらしいな」

 ん?また害虫が出たのか。

 王宮の職員が同僚と噂話をしている。

「あ~アイツな。本当に役に立たないクセに余計な事ばかりなぁ」

 馬鹿なのか、この職員は。

 害虫に何を期待してるんだ。


 このとは、王宮に巣食う害虫の事を言うのだと、部下に教えてもらった。

 余りにも周りが「G」「G」言うものだから、何か気になって部下に聞いたのだ。


「何もしないどころか、周りに迷惑を撒き散らし、人一倍飯は食う害虫がこの王宮には居るのです。皆、嫌悪を込めてGと呼びます」


 新たに部下となったこの男は、俺より10歳は上だ。

 王子の側近なら大出世だろうな!

 それなのに、いつも仏頂面をしている。

 まったく。何が不満なんだろうな。



 俺は、あの公爵令嬢と婚約破棄をしたら、廃嫡された。

 それまでいた側近の四人も、全員地方へ行った。

 全員廃嫡されたそうだ。

 中には除籍された者もいるようだ。

 きっと、余りにも能力が無いから貴族籍から抜かれたのだろう。



「Gは野に放てないからなぁ。しょうがないのか」

「国民に迷惑が掛かるだろ」

「塔に幽閉とかも、逆に金が掛かるしなぁ」

「そうそう。塔の整備費とか警備費とかな」


 そんな害虫は、さっさと駆除すれば良いのに馬鹿だな、と思いながら、俺は執務室へ戻った。




「また勝手に変な法案を議会にゴリ押ししましたね!?」

 執務室に入った途端、部下の男が俺に書類を投げつけてきた。

 金具で止めてあるからバラバラにはならないが、逆に言えば当たると痛い。


「何すんだ!俺を誰だと思ってる!!」

 怒鳴りつけると、部下は鼻で笑う。

「一番先に生まれたというだけで王太子となり、その立場を自分から捨てた第一王子ですよね」

 うっ。

 俺は、言葉に詰まった。

 その通りだからだ。


 生まれた時から王妃になる事が決まっている公爵令嬢。

 それとの婚約が決まったのが10歳だった。

 その意味に気付いたのは、婚約破棄して廃嫡になってからだった。


 この女と結婚した者が、王になるんだったのだ。

 俺の方がえがきく人間だったんだ。



「だが俺は、弟を支える為にここに居るんだ!」

 そう。俺は王となる弟を支える為に、王宮で働いている。能力をかわれて、王宮に居るんだぞ!

 俺を見る側近の目が、スッと細められた。


「建前って知ってます?」

 当たり前だ。

 本音では無い、表向きの意見とかの事だろう。

「本当は廃嫡どころか、王族籍から抜いて平民に落としたかったんですよ。そしたらアンタの事だから、国民に迷惑掛けるでしょう?金払わずに飯食ったり、勝手に店の服を着て帰ったり!」

 何を怒っているのか意味がわからない。


 だって、俺は王族なのだから、なぜ俺が金を払うんだ?

 金が欲しければ、王宮へ請求すれば良い。今まで通りに。


「塔に幽閉だって、無料タダじゃない。塔の管理費、掃除や料理を運ぶ使用人、それに警備兵が扉の前と塔の前に、最低でも必要だ」

 ん?どこかで聞いた話だな。


「いっその事、毒杯を賜るほどの事を仕出かしてくれれば良いものを、それほどの度胸も才能もない!むしろ無能だ!!」

 無能?それは、俺の事を言っているのか?

 今までも色々お前達の為に提案してやった俺に向かって言っているのか?



「王宮のパンは硬いから、全て柔らかい白パンにする事」

 おぉ!それな!絶対に白パンの方が美味いぞ。


「若い女性の制服は、全て袖を無くし、スカートも半分の丈にする」

 良いだろう?男性職員は目の保養が出来て、女性側は動きやすくなるんだ。

 最高だよな!


「休憩は昼と3時以外に、1時間おきに30分とする」

 良いだろう?適度な休憩は、作業効率を上げると誰かに聞いたんだ。


「馬鹿ですか?馬鹿でしたね」

 はぁ!?


「白パンにしたら、低い温度で焼くから時間が長くなるんですよ!焼く前に表面に粉を振るったり手間も増える!パン職人の仕事を増やすだけだ!」

 柔らかくて美味しいパンが食べられるなら、別に職人が苦労しようと関係無いだろ?

 奴等はそれが仕事だ。


「若い女性の制服の袖を無くせ?スカートを短くしろ?そもそもなぜ若い女性に限定する!差別だろう」

 お前はババアの肌が見たいのか?

「それに袖が長いのも、スカートが長いのも意味があるんだ。あれは体を守っているんだぞ!自分の体を危険に晒し、更にお前の様な男の欲望に体を差し出せと言うのか!!」

 別に見たって減るもんじゃないんだから、良いだろうが。


「休憩は昼と3時以外にって言っているけどな、そもそも3時に休憩しているのは、お前か無能な役職付きだけだ」

 何を言ってるんだ!

 俺は王太子時代は、10時と12時と3時と5時に休憩をして、お茶とお菓子を食べていたんだ!

 それでも仕事に支障は無かった!



「……無駄飯食らいの害虫が」


 え?今、俺に向かって言った……?のか?



「明日から、この部屋に来て、朝から晩までお茶しててください。この部屋から出ない事、それが貴方の仕事です」

 は?

「それが1番、被害が少ないので」

 え?だって俺は、王太子をいては王を補佐する立場だから、王宮から追い出されずに……

「わかりましたね、Giacomoジャコモ殿下」




 どっとはらいw

________________

作中のパンですが、通常のパンを全粒粉パンで、白パンを焼き色のない真っ白いパンだと思ってください。

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