ホントの決意

ほぼ家みたくなっていた絵里アパートはいつもみたいに鍵を開けたら「先生!」と暖かく出迎えてくれる事は無い。鍵を閉めてキッチンから順に部屋に電気をつけていく。この部屋の主は寝不足と栄養失調で倒れて、病院のベッドで気持ち良さそうに寝ている。

絵里部屋は、私の部屋とは違い、生活感があり、可愛らしいインテリアや小物、エステ道具で散らかっていた。中には何本か空のビール缶があったりしている事からテレビの前あたりでよく寝落ちているのが想像つく。空き缶を捨てて、タンスから絵里の着替えを紙袋に突っ込んでいると、ノートパソコンの横に本が置いてあることに気づいた。

私の初めて文庫化した本だった。

「懐かしい」

何度も読み返しされているのがわかるくらい傷だらけで、ページの所々が寄れていた。

初めて絵里が私の担当になった日を思い出す。

『わ、わわ私は、本日から担当になります、小崎絵里と申します!よろしくお願いします!』

最初は凄く苦手に思ってたけど、ホントに真面目で悩む事を馬鹿らしくしてくれる、不思議な子

『先生の話が大好きなんです!本当です!』

『僕は君に真似されることは嬉しいよ。凄く。それは、無名の君にも言える事だよ』

はは、私、ほんと馬鹿だな。

要らないことで、大事な人達の言葉、聞こえなくなってた。

「なんだよ。みんな答え言ってんじゃん」

いつの間にか出てた涙を拭って、

「取りに行ってあげますか。直木賞!」

本を閉じた。

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