浦田先生と遥

ウェブ漫画の打ち合わせが終わって、三時間ほど座りっぱなしだった体をほぐす。

「あーマジ疲れた」

「お疲れ様です。先生」

この間のパーティーの一件から少しだけ絵里がよそよそしい。彼女の行動には大まな予想はつく。それでも上手く体が動かない。

「先生、私、資料の片付けしてきますね」

「え?うん」

元気そうなのに何処がボーっとしている。屈伸をしたとソファに座ってため息をつくと、

「喧嘩かい?珍しことがあったものだね」

男性の優しい声に振り返ると、緑の着物に銀髪のパーマ、糸目に丸眼鏡という時代がわからなくなる様な人物が居た。

「浦田先生!」

そしてその人物は私の敬愛している作家、浦田正平だ。

「やあ。元気そうだね」

「はい」

「でも悩んでるね。何かあった?」

「ああ、ぁぁえっと…」

口篭る自分の隣に腰を下ろした。

「さ、教えてご覧」

「えっと………」

そのまま圧に押されて説明してしまった。

「なるほどねぇ、そんな編集者がいるなんて驚きだよ」

「あはは」

「笑い事では無いと思うけど…。でもそうか、そんな事情が」

「すみません。こんな話をしてしまって」

「いやいや、僕からしたらいいフィールドワークだよ」

「ならいいですけど…」

「でもそうか、僕の本はもう読んではくれてないのか…悲しいなぁ」

「すみません…」

「ふふ、冗談だよ。でも、絵理ちゃんの気持ちは分かるな」

「そう、ですよね」

「作家だから君の気持ちもわかる」

「…」

「好きな物を描き続けるって言うのはどうにも面倒で批判をより怖くなるからね。人間不器用だから、批判を事ある事に思い出してしまう。そういう時、どうすると思う?」

「え?そういう時…気、気にしないようにする?」

「それは逆効果だよ。批判を自分で笑うんだ」

「批判を笑う…」

「小説家になりたいと思った瞬間から小説家さ。生きてる一秒一秒が僕にとっての勉強で、ネタさ。そしてその中から分かりやすく好きな物を伝える。どんな感情も好きな物になったら熱が入る。そうだろ?」

「好きな物…」

「物凄く売れなてもある程度食べて行ければ良いしね」

こんな夢物語を言って巨匠であるから、本当にすごい。私には追いつけない。

「浦田先生、私は先生の文が好きです」

「ありがとう」

「浦田先生みたくやりたくて、文を真似たりします」

「うん」

「良いですか?」

浦田先生は少し考え込む。私の質問が分かりづらかっただろうか?

「なぜ、許可がいるんだい?」

「え?いや、その…」

「僕はどれだけ文章を真似たって、物語や思考が違えば僕の作品にはならないと思うのだけど…」

「そうかもしれませんね…」

「僕は君に真似されるのは嬉しいよ。凄く。それは、無名だった君にも言えることだよ」

「…?」

先生は私を少し見たあと、立ち上がって、懐から一冊の本を取り出した。

「これ。僕の新作。僕の好きなことが書いてある。君が好きだと言ってくれた僕の文だよ。好きに真似するといいさ」

そう言って私の頭を一回撫でると、背を向けてしまった。先生に渡された分厚い本を開いて目次を見る。どうやら長編小説の様だった。私の大好きな、本。目次に書いてある名前だけで私はこの本を好きなことを確信する。

「…」

「北野先生!!」

慌ただしく扉が開いて編集者の一人が真っ青な顔で私に飛びかかってくる

「え、絵里さんがっ倒れました!」

「え?」

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