ハッピーエンドの方法

豪華なホテルのホール。シャンデリアとサーモンピンクと薄ピンクを貴重に装飾された壁と赤絨毯の上。

いつものズボラが見えないほど、しっかりと化粧をされ、巻かれた髪。赤いドレスに身を包み、遥は背筋を伸ばしてシャンパンをちびちび飲んでいた。隣にはどこか誇らしげな絵里も居て。

「はぁぁ、帰りたい。今すぐに」

「先生…そんなこと言わないでください」

「なんかとってくる」

「はい」

ローストビーフを取りに行くと案の定、私に近づいてくる男が居た。前島だ。

「どうも、"直木賞受賞"おめでとうございます」

いかにもな定型文の後に、いつものように私対する愚痴が始まった。

「お言葉ですが」

「はい?」

「そのような事言ってもよろしいのですか?」

「何を言ってるんだか、私が言っているのはあくまで感想ですから」

「ふーん。私にはほぼ悪口にしか聞こえませんね。まぁ、このまま話し合っても平行線でしょうから…」

後ろに人の気配を感じてその人を指す。

「っ!」

「ジャッチしていただきましょう!」

「う、浦田先生!」

のほほんとした顔でニコニコする浦田先生。けれども何処か鋭いような気がするのは、怒ってくれているからだろう。恨めしそうに私を見る前島に絵里と舌を出してやった。今にも殴りそうだったが、浦田先生の

「どうも」

で怯えた表情になる

「…」

浦田先生が出てきて前島は一気に冷や汗をかき始めた。まぁ、そうだろうな。浦田先生は巨匠中の巨匠だ。

「先程の言葉は私の愛弟子に対してという事でよろしいですか?」

「た、確かにそうですが」

「なれば、僕に対する侮辱として、貴方の上司に喝を入れてやれねばなりませんね」

「お、お待ちください!私はただ感想を言っただけで…」

「おや、そうなのですか?なれば考えなければなりませんね」

前島は先生の言葉に安心したように

「そうです。感想です。なので上司に報告する実用は…」

『貴方のような偏屈がこんな賞を取れるなんて、枕でもやったのですか?あぁ、でもそんな美貌もないでしょうから金でも詰んだんですか?いくらで買えるのか教えて下さいよ』

私のボイスレコーダーから流れてきたのは今の今まで私に対していた言っていた言葉だった。

「私には、これが感想には聞こえませんね!」

「貴様…!」

ここぞとばかりに私は満面の笑みを見せた。

「僕には侮辱にしか聞こえません。そうだ、貴方の一番信頼する方に聞いてもらいましょうか?」

「お待ち下さい!あ、謝りますから、や、やめてください!」

その場で土下座し始めた前島に周りがざわつき始める。

「なんてね。冗談ですよ」

「へ?」

「僕は人を陥れるなんて事はしません」

「そ、そうですよね!あの大…」

「其れはこれから先私と弟子の視界に入らない限り。ですよ」

地を這う低い声で先生は言う。

「ひっ!」

「次、同じ事をしたら覚悟しておいて下さい」

そう言って先生は踵を返した。前島を見ると、魂が抜けたように真っ白になっていた。

「ふふ、あはははは!」

私は場を構わず大笑いしてしまった。絵里も釣られて笑い始め、

浦田先生に駆け寄る。

「先生の小説さながらの逆転でした。あんな小説みたいな事、ホントにするなんて…流石、浦田先生です。すごくスッキリしました!」

「それは良かった」

絵里と手を握って、

「私達はこれで失礼します」

「もう帰るのですか?」

「はい。アンナの見せられたら書かずには要らせんよ」

「そうですか」

絵里が小さく頭を下げて、

「ありがとうございました。失礼します」

と笑う。私も同じようにして、頭を下げたあと浦田先生に背を向けた。

「浦田先生!」

「はい」

「新作待ってます!」

「…はい。あなたたちも、もう喧嘩しないで下さいよ」

「「はーい!」」

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小説が読めない小説家の話 華創使梨 @Kuro1230

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