第55話大賢者と大修行

俺とメア、令、アリスの3人はシルヴィア会長に呼び出されていた。

無論掟の大会関連の事だろう。


「さて、呼ばれた理由は薄々分かってると思うけど、あなた達には少し修行をして貰うわ」


「確かに婿殿の戦闘力は魔術以外は皆無、ここで稽古を付けるべき―」


「違うわよ令。修行して貰うのはあなた達タンク役の3人よ」


「え?」


「ゼロ君には生きた剣のリンさんが付いてるし、身体能力の低さも魔術で強化すれば十分カバーできるわ。でもあなた達は違う」


「なら私達も旦那様の強化魔術でカバーして貰えばいいのでは?」


「勿論そうして貰うけど戦闘技術ばかりは魔術ではどうにもならないでしょ?特にアリスちゃんとか」


「普段ジャック君と触れ合うだけで、戦闘なんて私できません…」


「でしょうね。ゼロ君相手に適わないって連中はタンク役との切り離しに掛かって来るでしょ?だからタンク役の強化は必須なの」


「成程…婿殿と上手く連携を取る為にも必要な事ではあるな」


「え~、修行?汗臭いのは苦手なのよね~お化粧も落ちるし…」


修行に難色を示したのはメアであった。

しかし次の会長の一言がメアをやる気にさせる。


「私達以外の大会優勝の望みはゼロ君の奪取か抹殺でしょうね。どの国にも魅力的且つ脅威だから」


「あ、それあるかもな。俺って今は他の賢者達から命狙われてるし」


「それって、旦那様と色々な意味で離れ離れになるって事?そんなの嫌よ!」


「なら修行に精を出しなさい」


「だそうだ、頑張ってくれ」


「あなたも頑張るのよ」


「え?」


突然話題の矛先が俺に向き困惑する俺。

まあ一番狙われるのが俺なんだからそりゃそうだわな。


「ゼロ君には私がつきっきりで修業をつけてあげる」


「えーと、身体強化の魔術をかけてですか?」


「そうよ。実戦的な訓練にする為にね」


「わ、わかりました(あれ使うと身体がしんどいんだよなぁ)」


「じゃあ私達は別の場所で修業してるから、そっちは頼んだわよ令」


「心得た、会長。婿殿も頑張ってくれ」



―バビロニアのとある荒野



「ここなら被害は出ないでしょう。いくわよゼロ君」


「分かりました会長。じゃあ強化魔術を掛けます。手を貸して下さい、タンクにするんで」


「あ、私にはいいわよ。素で戦うから」


「え?いいんですか?」


「だからって手加減は無用よ。全力で来なさい」


最初は戸惑ったが俺だが、以前の闘技場で会長の戦いっぷりは見ていたので、その言葉を信じる事にした。


「魔術は禁止、リンさんも禁止、肉弾戦のみできなさい」


「わかりました!いきますよ、会長!」


俺と会長は互いに手を繋いだまま浮遊の魔術を唱えるとお互いにキスできる位に接近する。

一瞬戸惑った俺の隙を会長は見逃さず、間髪入れずに連撃を入れて来る。

防護の魔術のおかげでダメージは無いが、会長の攻撃は的確に俺の急所を狙っていた。

一方俺は反撃する気にならず、防戦一方だった。


「女の子を攻撃するのは気が引ける?敵にも女の子がいるかもしれないわよ?」


「そうですよね、わかりました!」


俺は気合を入れると強化魔術を施した身体で会長に攻撃を入れる。

酷い事になっても最悪回復魔術で回復すればいい。

そう考えると俺の中の何かが吹っ切れた。


「うおおおおおおおおおおおお!!!」


俺の素早い剛力パンチが会長を襲う。

しかし会長はそれを片手でいなしていた。


「動きが大きすぎる!もう少しコンパクトに動いて!」


「こ、こうですか?」


俺は自分の身体の動きに注意して連撃を繰り出すと少しはマシになった様な手ごたえを感じた。

しかし会長には依然としてクリーンヒットする事はない。


「まあこんな物ね」


「え、俺の攻撃全然当たってないんですけど」


「私は異国の古武術をやってるから、格闘技素人のゼロ君の攻撃がまともに当たらないのは当たり前」


「そういえばそうですね」


「ただあなたには戦う心構えみたいなのを知っておいて欲しかったの。魔力は強いけど戦いは素人だから」


「ううう、返す言葉もありません…」


最強の大賢者パワーで無双できると思ってはいたが、それは戦闘技術の無い魔物相手の話だ。

それに俺のメンタルは大賢者じゃないし、戦う信念や心構えなんて事も考えた事もなかった。

戦いに対しては、あらゆる意味で素人過ぎたのだ。


「それに今まで魔物相手に瞬殺の戦いばかりしてきたでしょ?今度の相手は人間、しかも殺しちゃいけないの、この意味分かる?」


「上手く加減して戦えって事ですね」


「それに加えて敵はゼロ君一転集中だろうし、残りMPを考えて戦わないといけないから器用な立ち回りが必要よ」


「分かりました。メアや令やアリス達も守りながら戦う必要がありますしね」


「その通りよ。さあお喋りはここでお終い、修行再開よ」


「わかりました!いきますよ会長!」


―数時間後


「結構…頑張ったと…思うんですけど…」


「そうね、あちこちにクレーターを作らなくなった辺り、力の制御が身について来たと思うわ」


「じゃあ、少し休憩を…」


「そうね。じゃあ横になってくれる?」


「会長いったい何を…」


「私が告白した日に脚に注目してたでしょ?だから足でマッサージしてあげようかなぁって」


「…そうですか、分かりました」


俺は意を決して仰向けになった。


「???、早くしたいからうつ伏せになってくれる?」


ああ、そういう意味でのマッサージじゃないんですね。

俺は期待半減させうつぶせになった。


「じゃあいくわよ。痛かったら言ってね」


「はい」


シルヴィア会長は靴を脱ぐとニーソックス越しに俺の背中に触れた。

さらさらとしたニーソの感触とさっきまで運動してたので程よい汗のしめりけを背中に感じる。

会長はその美脚で俺の背中を優しくなぞったり、擦り上げたりした。


「おうふ…」


「あら?痛かったかしら?」


「いや、むしろ気持ちいいです。続けて下さい」


「???分かったわ」


思わず反応してしまった俺だったが、その後は無反応に徹した。

この天国をやめられたら困るからな。

こうして俺はしばらく会長の美脚マッサージを堪能した。

その後の地獄の修行に耐える為にもな。





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