第42話四天王と竜食いの魔女

―魔王城


ここは魔王城の一室。

そこにはおびただしい魔力を秘めた魔王やその配下の四天王達が集まっていた。


「三眼竜サイクロプスがやられた様だな」


「くくく、ご安心下さい魔王様、奴は防御だけが取り柄の魔物」


ローブを纏った女性が不敵に笑う。


「奴は四天王にして最弱。次は私が大賢者とやらを始末して…」


ローブを纏った老紳士が同じく不敵に笑う。


「いや、魔導士のお主には相性が悪い。ここは最強の力を持つ我が」


同じくローブを纏った巨漢の男が我先にと前に出る。


「ええい!いい加減にせぬか!」


魔王らしき玉座に座った魔物が一喝すると周囲は一気に静まった。


「大賢者だかなんだか知らんが、私が直々に出向いて退治してくれるわ!」


―3時間後



「ご報告します!魔王様が大賢者一行にやられました!」


「な、なんだってー!」


先程まで野心で渦巻いてた四天王一行がざわざわと騒ぎだす。


「しかしこれはゆゆしき事態じゃのう」


ローブの老紳士がそわそわと右往左往する。


「あの時力ずくでも止めるべきだったのだ!」


大柄のローブの男が机を叩く。


「まあまあ落ち着きなさいな。私達にはあのお方がいるでしょう?」


ローブを纏った女は余裕の笑みを浮かべている。


「そう、魔王様の妹様、1億年生きた吸血鬼の姫マーリン様がね」


さっそうと部屋に入って来て発言したのは同じく吸血鬼のラキュラスという少女だった。

ラキュラスがローブを脱ぐとまるで人形の様な端正な顔立ちと美しい銀髪があらわになる。

彼女もマーリンには及ばないが、500年生きており、吸血鬼とサキュバスのハーフでもある。

そして新しく四天王入りしたメンバーの一人であった。


「新入りですが発言してもよろしいかしら?」


他の四天王は沈黙している。

問題無いという事だろう。


「あの大賢者一行は竜族の領域に入りました。ここは竜喰いの魔女、レジーナ様が対応すべきかと」


「あの魔王様が勝てなかったのよ!?私に勝てる訳がないじゃない!」


「大賢者一行も魔王様を相手にして疲弊している筈。今がチャンスですわ」


「ううう…確かに。分かったわ。周辺の竜族達に攻撃命令を出すわ」


「では私はマーリン様にご報告して参りますので」


そう言うとラキュラスは退室した。

もう口に出した以上やるしかないと決意したレジーナは、

全力を持って大賢者を倒す事にした。

その為には三つ目の魔竜サイクロプスの心臓が必要である。

レジーナは人間に近い容姿をしている。

その為なんなく村に潜入できた。


「あの、三つ目のドラゴンの死体はどこですか?」


レジーナがその辺を歩いていた村人に話しかける。


「ああ、あの大賢者様が倒されたドラゴンなら村長の家にあるよ」


「そう、これはお礼よ」


レジーナは大口を開けるとドラゴンの如く灼熱の炎で村人を焼き尽くした。

竜食いの魔女とは、ドラゴンの心臓を食う事でそのドラゴンの能力を得られるという特異な能力から付けられた異名である。

レジーナの目的は三眼竜サイクロプスの心臓を食べ、魔力吸収の能力を得る事だった。


「あなたが村長さんね?三つ目のドラゴンはどこ?」


「…お主、ただの観光客ではござらんな?帰ってくれぃ!」


「しょうがないわねぇ…じゃあ力づくで奪わせて貰うわ!」


「エルザ!お主は逃げるんじゃ!逃げて大賢者様達を呼んで来るんじゃ!」


「わ、わかりました!おじい様!」


エルザは涙を流していた。

自分の死が怖いのもあるが、村長である祖父の死が確定的に明らかだからである。

しかしエルザの考えとレジーナの考えは違った。


「この老いぼれは3日だけ生かしておいてやる。その代わり確実に大賢者を連れてくるんだよ!さもないと…」


レジーナは先程焼き尽くした村人をエルザに見せつけた。


「少しでも遅れたら老いぼれは同じ目に合うからね!」


レジーナはドスの効いた声でそう言うと、大賢者一行の現在地を示した地図を渡した。

これは親切心でもなんでもない。

単に確実に時間内に疲弊した状態の大賢者を連れて来て欲しいからである。


「わ、わかりました!」


エルザは地図を握りしめると目的地へと急いだ。




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