第41話大賢者と魔力を食う竜(四天王戦その1)

バビロニアを出てからはや数時間、俺達は近くの村までもう少しの所へ来ていた。


「おい、もう少しだから頑張ろうぜ」


俺が励ますも後ろの3人のペースは遅れていくままだ。


「旦那様、少し休みましょうよ…」


「ジャック君、アリスも賛成かな、かな」


「貴様達たるんでるぞ!何度目の休憩だと思ってるんだ全く…」


さすが御門先輩、健脚である。

まあお嬢様には厳しい道のりかもしれん。


「やっぱり転移の魔法を使いましょうよ、旦那様ぁ…」


「駄目だ、転移先に敵がいたらどうするんだ。それにMPに余裕はないんだぞ」


「へへへ、さすがジャック君、よく考えてるんだね。凄いよ」


「褒めてる暇があったら少しでも休んでくれ。もう少しなんだからさ」


「婿殿の言う通りだ。全く…」


こんなやりとりを続けて一時間経過し、俺達の旅はようやくまた始まった。

そして歩く事30分、ようやく近くの村が見えて来た。


「じゃあ今夜はあそこの村に止まるか」


「ようやくベッドのある部屋で休めるのね…!寝かさないわよ旦那様!」


「あ、メアさんずるいです!アリスもジャック君と寝ます!」


「全く破廉恥な…。婿殿の貞操は私が守らねば」


おいおい、気が早いなこいつら…

まあせっかくのハーレムなんだから楽しませて貰うか。

俺がそう考えていた矢先である。


「ドラゴンがでたぞおおおおおおおおおおおお!!!」


俺が上空を見上げると巨大な三つ目のドラゴンが空を飛んでいた。

そしてドラゴンが空中停止して口を開く。


「やばい!バリアー!超広域モード!」


俺はとっさにアリス達の手を繋ぐと、村全体をバリアで覆った。

ドラゴンの灼熱のブレスは俺の張ったバリアによってなんなく防がれた。

しかしこれは結構MPを食う。

メア達も旅の疲れもあってかもうへとへとだ。

俺は御門先輩と一緒にメア達に肩を貸すと、村の宿屋まで運んだ。


「すまない、大至急4人休みたいんですけど…」


「申し訳ありません、宿屋は今臨時休業中でして…」


どうやら先程のドラゴンの討伐隊達や怪我した村人達の臨時の休憩所になってるらしい。

つまり逆を言えばドラゴンを倒せば宿屋に泊まれる訳だ。

俺はメア達をここに置いて、この村の責任者…つまり村長に会いにいった。


「え?あなたが村長さん?」


そこにいたのは何とも美しい20代半ばの女性だった。


「村長は祖父ですが、怪我で寝込んでおり、今は私が代理を…」


「ふーん、まあいいや。ドラゴンを倒すから情報をくれないか?」


「あなたがあのドラゴンを?」


村長代理は信じられないといった顔をしている。

まあそりゃそうか。

俺はバビロニアの国王である証の印章を見せる。

黄門様の印籠みたいなもんだ。


「あなたがあの最難関ダンジョンをクリアして大闘技場を制覇したあの!?」


どうやら俺の名声は順調に広まっているらしい。

シルヴィア生徒会長の策通りという訳だ。


「ええまあ。で、あのドラゴンはどんな奴なんです?」


大賢者の魔力で一発だろうが一応情報収集はしておこう。

万一自爆でもされたら困るしな。


「あのドラゴンは魔力を吸収します」


「え」


これはまずい相手だ。

強力な大賢者の魔術も吸収されたら意味がない。

それどころかもっと相手を強くしてしまう可能性もある。


「俺に任せて下さい。ところでお名前は?」


「エルザと申します」


「エルザさん、この勝利、あなたに捧げましょう」


「は、はぁ…よ、よろしくお願いします」



―宿屋入口



「そういう訳だからお前達、しっかり休んでおいてくれよ」


「旦那様、まさかそのエルザって人と浮気してるんじゃないでしょうね」


さすがメアだ、勘が鋭い。

しかし俺はハーレムの王を目指す男、この程度で臆してはいられない。


「ハーレムなんだから浮気も何もないだろ。全員平等に愛してみせるよ」


「なっ…!?」


俺が好感度ボードを取り出すとかたかたと震えている。

しかしロックを掛けている為、メアの好感度は上がる事も下がる事も無い。

なまじ本心な分、設定5でロックのかかってるアリスが一番怖い。

しかしアリスは落ち着いていた、御門先輩もだ。


「ジャック君のいつもの事だよね。それより愛してくれるって言ってくれた方が嬉しいな」


「英雄色を好むというからな。婿殿程の男ともなればしかたがない」


「皆がそう言うなら…でも一番は私だからね!旦那様」


「理解してくれたか、嬉しいよ」


ただモテるだけではハーレムを築くのは難しいのだなぁと、

しみじみ思った俺だった。



―次の日


「エルザさん、この時刻のここにドラゴンが来るんですね?」


「はい、いつもそうなんです」


「分かりました。後は俺がなんとかするので皆さんは避難していて下さい」


「え!?4人でなんとかなるんですか!?」


「なります。というか護衛対象が増えると魔力が足りなくなるかもしれません」


「は、はぁ…分かりました。言う通りに致します」


エルザさんは村人や討伐隊の人達を村の裏山にまで避難させると、

魔術で俺に合図を出した。


「しかし婿殿、本当に我々だけでなんとかなるのか?」


「ジャック君、相手は魔力を吸収するドラゴンなんだよね?」


「旦那様の事、何か策があるに違いないわ」


「まあまあ落ち着いてくれ。とりあえず3人とも手を握ってくれ」


メア、御門先輩、アリスはそれぞれ手を繋ぎ、俺はメアの手を握った。

そして三つ目の竜が飛んでくる。


「くらえ!最高出力のバーンだ!」


俺は火の魔術を全力で唱えた。

竜の鱗は光り輝くと俺の魔力のこもった炎を吸収していく。


「どんどん吸収されていってるわよ、旦那様!」


「予定通り!根くらべだ!!」


最初は眩く輝いていた竜の鱗だが、しだいにその光を失っていく。

どうやら魔力の吸収量が許容量を超えた様だ。

しかしそれに構わず俺は魔術を唱え続ける。

魔力を吸収しきれなくなった竜は俺の魔術をモロに浴びる事になり、ついに灰と化した。


「大丈夫か3人とも!」


メア達はMPを消耗しきったせいかもう倒れる寸前である。

俺は彼女達を抱き抱えると宿屋へと運んだ。


「じゃあ俺はエルザさんに報告しにいってくるから、ゆっくり休んでいろよ」



―村長の家



「あなたが村長さんですか」


「あなたが…けほけほ…ドラゴンを…けほ…倒されたと言う英雄様ですかな」


「おじい様、無理をしないで」


「エルザさん、MPはありますか?」


「ええ、昨年のテストでは中の下位ですわ」


「じゃあお手をお借りして…ヒール!」


俺はエルザさんをMPタンクにし、村長の傷を完璧に癒した。


「じゃあ俺はこれで…」


「待って!おじい様、二人にして下さいます?」


「おおそうか、英雄様相手なら息子も文句はあるまいて」


そそくさと家から出て行く村長。

どういう事だ?はっま、まさか。


「お礼はしたいのですがこの村にそんなお金はありません。なので私で…」


「いいんですか?遠慮はしませんよ?」


「は、はい。あなた相手なら私…」


エルザさんの手を取ると明らかに火照っていた。

目と目が合った瞬間目を逸らす俺達。


「こっちです…」


エルザさんは自分のベッドへと俺を案内した。



―次の日



「いや~気持ちのいい朝だなぁ」


「ジャック君、昨日はどこに行っていたのかな、かな?」


「婿殿、内容次第では斬るぞ」


「あらあらみんな、旦那様がハーレム作る事には文句ないんじゃなくって?」


一番反対しそうなメアが抱き着いてくる。


「お前が一番反対してたじゃないか」


俺がメアに疑問を投げかける。


「反対する必要なんてなかったわ。私が正妻なんだから、ね」


メアが俺の方を向いてウインクする。

アリスと御門先輩の方は…見ない様にしよう。

こうして俺達の波乱の旅は続くのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る