第7話「行動を起こそう」

「君は裏から離れた方が良い。何か必要な物があるならば、持っていくんだ。

もしかしたら拠点を手放すことになるだろうから。その時間は僕たちで

稼ぐよ」

「分かった。急いで取って来て、すぐに出て行くよ!」


階段を駆け上がる。マキは探偵事務所の扉を開いて、自分の持ち物を掻き集め

分別する。本当に必要なもの、必要だけど後から買い足せるものは置いて行く。

カバンの中に押し込む。建物が振動した。少し物陰に身を隠し、窓に目を向ける。

窓ガラスが蹴破られた。


「どうしたんですか?ヴェスカさん」


二人組だ。少し小柄で童顔の男ルカは共に壁をよじ登っていたヴェスカは

辺りを見回す。


「…いや、誰かいる」

「怪盗団でしょうか…」


敵意があるようだ。どうするのが正解なんだ!?マキは彼らの様子をジッと窺う。

徐々に距離が近くなってきた。手元にあったスイッチを押す。それは密かに

ユリカと共に仕組んでいたものだ。使わないだろとか思っていたが今はすごく

役に立った。音は、その…騒がしいけど…。


「あ、オイ待ちやがれ!!」

「待ってください。僕たちは先に屋上に行かなければ!」



慌てて荷物を持って裏口から逃げる。アーサーたちに一言断ってから、ビルを

後にする。事が済んだら、やるべきことをやる。絶望まで、後どれぐらいだ。



後方でビルが崩れた。それが合図なのだ。第三者にしかできないことをするための

布石はこれから用意する。即座にアーサーたちも逃走し、アルテアパークへ

急いでいる。電話をした相手は女性だ。


『誰かしら?』

「マキです」

『?彼女は死んだはずよ』

「マキですよ。マダムローズ。但し、マリアと名乗ったマキよりも若い18歳です。

聞いてますよね?私はやりますよ。全部―」


その女性は富豪だ。そしてホワイトローを信用しない。マリアを知り、彼女から

ホワイトローの悪事について、マリア自身の事を知った。彼女がタイムスリップ

してきた人間で、マリアの魂を抱えていることを…。


『そう…貴方がケリをつけるというのね?』

「はい」

『できるの?』

「やるしかない」


そう答えて電源を切った。アーサーたちは逃走、多くの用心棒が彼らを

追跡する。能力者たちが集まって来た。彼らが集まるのはアルテアパーク。

呼び寄せられるように嵐もやって来る。だからケリをつける。全てに…。

マキはウエストポーチからペンを取り出した。空間と空間を繋げるペン。

大きな丸を描いた。覗き込むと瓦礫の中に埋まっている用心棒たちが

見える。彼らの意識の有無が分からない。


「あのぅ…大丈夫ですか?」

「ッ、貴方は…」

「私の事は後で。それよりも急いで急いで。穴が塞がっちゃう」


マキは手を伸ばした。彼らを引っ張り出す。計四人だ。穴が塞がったことを確認

してからマキは彼らに説明した。


「ルナティックという嵐が来たら、私の指示を聞いて欲しい」

「どういうことだ?」

「それもどれも、全部後!時間がない。どうせ行くんでしょ…本当に時間が

無いんだ!良い?私以外、全員同じ苦しみを味わってるってことを忘れないで」


マキは腕時計に目を向けた。空も見る。そろそろ動かないと!


「じゃあ細かいことは後で分かるから!」


マキは何かを両足の太腿に巻き付ける。先に炎に包まれたときに色々見えるように

なっていた。目の力、彼女の目覚めた力は見る力だった。動きが見える。人も。

遠くが見えるというよりGPS機能を使った時の様に、ゼンリーを使ったような

視界だ。地面を蹴り上げ跳躍したマキはBMXのハンドルを掴んだ。運転する

男の背後に飛び乗って。


「ちょっとちょっと!危ないから離れてよ」

「PAILMOONのセイマ君でしょ?もしかして~こんなか弱い女の子を乱暴に

地面に振り落とすなんて~残虐な事はしないよね?」

「だ、だとしても!」

「やっても良いけど、知らない?人は悪い噂はすぐに信じるのよ。私が

PAILMOONに助けを求めたら、振り落とされて大怪我しましたって言ったら、

一瞬で広まるけど」


意地が悪いことを言っているのは分かっている。だが許せ、やるべきことを

やるために心を鬼に、悪魔かもしれないけど鬼にするんだ!


「オイ、アンタ一体何を考えてるんだ」


追うことを断念したイリュージョニストたちは彼女と共に地面に降り、

彼女に問い詰める。


「オーケー。二人は色々と事情が分かっているはずだって頼れる相棒が

教えてくれたから、伝えるよ。でも、時が来てからね。そうしないと、私が

動けなくなるから」

「だから、一体何の―」


マキは「しっ!」と人差し指を口元に当てた。


「言うには言うけど、大声では言えないよ。手品師は、手品の種を言ったりしない。

当たり前でしょう?みんなの魔法だって、誰かに知られないように魔法だと

言い張って隠してる。そう言っていたのは、ちょっと意地悪で、ダジャレが

好きなマキっていうお婆ちゃん。それ、私の未来だから、そこんところヨロシク」

「「…はぁ!?」」


事は進んでいく。


「マスター、ホワイトローはまだ来ていないようです。ですけど見てください」


スマホ画面で再生される映像、そして音声。裏稼業人だろうか。柄が悪そうだ。

そんな人間とつるんでいるのか。何かの取引をしているようだ。


「解析完了しました。マスター、この武器は―」


マキは息を呑んだ。それから覚悟を決めて彼女はアルテアパークに向かう。

彼らに倒れられては困るから。そろそろ、彼らにとってはリベンジマッチの時間だ。

全てを奪われた過去、そして全てを守ると決めた今。


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嵐のレジスタンス 花道優曇華 @snow1comer

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