第6話「大乱戦の火蓋」

無事に怪盗団が帰って来た。


「その人は…」

「少し相談に乗って貰っていたの。素敵な助手ね。助かったわ、ありがとう

マキ」


寂しさなんて感じさせないほど、穏やかな笑顔を向けてマリアは事務所を

出て行った。マリアが出て行ってから、マキはアーサーたちの帰還に

安堵した。


「そのカバンは?」

「あー、これはさっきの依頼人?のマリアさんから貰ったんです。自分には

必要無いし、捨てるのは勿体ないからって」

「だけど中身はまだ秘密です!ねー!」


ユリカとマキが揃って中身を教えないと言い張った。「それよりも…」と

マキはレイの腕を見た。


「なんかとんでもないことになってますけど…」

「あぁ、これについては後で伝えるよ」


夜になって、改めてレイたちから聞いた。アーサーが捕まって、奪還と同時に

宝石も確保できた。で、レイの体は少し特殊だ。ユリカがそれについて

説明をしてくれた。


「サイボーグ化!?…嵐があった後に禁止された…。その前は軍で使われていてって

ホント200年って凄いわ…。サイボーグ化なんて漫画でしか見たこと無いから。

その体のメンテナンスも出来るアーサーとルージュも凄いわ」

「そういえば、マキさん」

「分かってる。どうして半透明でホテルにいたのかって話だよね?簡単に

言うなら、うーん…」

「幽体離脱ですよ、ルージュさん。クロノスの懐中時計を持って、試して

みたんです!」


興味本位で試したら、出来てしまったらしい。また明日、アルテアパークと

呼ばれる場所に行くらしい。エアの書の下巻、そして眠るマリアの魂の

在処を見つけられる鏡を盗むために…。


「…多分、全部のチームが集まってくると思う」

「それはまたどうして?」

「うっ、それは…き、企業秘密です!」

「フフッ、そうか。君から聞き出すのは難しそうだね。そういうことなら

僕は何も言わないよ」


すぐに身を引いてくれた。だけどきっとすぐに言うことになるんだろうな、と

マキは考えていた。



「マリアとはお前だな?」

「あら、貴方は九井という人ね。どんな御用?」

「簡単だ」


彼は銃口をマリアに向けた。


「貴様がマリアの魂を隠し持っているんだろう」

「渡さないわ」

「これは忠告だ。言わなければ撃つ」

「何度も言わせないで。渡さない。その誇った面、泣きっ面にしてやるわ―」


乾いた発砲音だ。額を撃ち抜かれたマリアが後ろに倒れた。しかし直後に

彼女の肉体が消えてしまった。それは老婆を殺した時と同じだ。


「貴様でも無いというのか!?」



ボッ、と白銀の炎が突然マキの体を覆った。あまりにも突然の人体発火に

全員が慌てふためく。


「兎に角、水を!」

「持ってきたぞ!」


バケツ一杯の水をなりふり構わずマキに投げかけた。冗談なら笑えるのだが

マキの体は冗談でも何でもなく、炎に包まれている。バケツを持っていた

フェムトも驚いている。それを抑えるように想像してみると炎が鎮火し、消えた。

何事なのか、マキ自身も分からなかった。


「普通の炎ではないことは確かだね…僕たちでは解明は難しい。まずは

アルテアパークに向かい、残りのイデアを手に入れる」

「なら、俺とルージュで視察に向かおうか?」


ルージュとフェムト、二人がそう提案した。どのみち、今すぐに全員で

動くのは難しい。レイのメンテナンスを完了させる必要があるから。


「でもでも、よく考えてくださいよ二人とも。成人男性二人でテーマパークって

違和感ありません?マスターも思いますよね!?」

「ちょっとだけね、ちょっとだけ」

「ですから、ここで超高性能AIのユリカの新機能をお披露目しますよ~

へーんしん!!」


仮面ライダーさながらの掛け声とポーズだ。するとスマホの画面から

何かが飛び出した。しっかりとした肉体がある。だがスマホの中にも残っている

ユリカの姿。だが飛び出て来た少女もユリカだ。


「実はですね、マスターがちょっと見ていない間に私もアップデートしていたの

です!勿論、私が離れていてもマスターのバックアップが可能なので安心

してくださいね!」

「アプデで実体化とか、聞いたこと無いけど…でも凄いよ!より頼れるAIに

なったんだね!」

「それに、正規ルートでアルテアパーク1DAYチケットも入手しています。

二枚ありますが、今は緊迫してますしマスターもしたいことがあるんですよね?

一枚は私とルージュさんとフェムトさんの三人が入園するために使います。

何時か、プライベートでみんなで行きましょう!」

「…そうだね。私も行ってみたいよ。さっさと面倒な事は終わらせて、ね」


三人が出て行った後だった。メンテナンスを進める間、レイの口から彼が

怪盗団に入団するまでの経緯を教えてくれた。元々は敵同士だったらしい。

アーサーが仲間たちにレイを解放してやりたいと告げて、色々と苦労は

したが解放に成功した。戦う以外の道、これは変わるキッカケだったようだ。


「あのさ、今更だけど意外と文明破壊されても人間って生きてるモンなんだね」

「そう見えても、多くの人が命を落としているんだよ」


見かけだけだった。全員が過去を背負っていた。大切な人を亡くした過去、

守れなかった過去、無力さを知った。怪盗団の中にもいる。折角能力が

あったのに、守れなかったという無念を抱えている人間が。


「それはルージュが強いと思うよ。彼の家は子沢山でね。彼は長男で妹が

沢山いたんだ」

「へぇ、女系家族だったのかな…じゃあ、その妹たちは」


アーサーは無言で頷いた。マキは横目にレイを見た。本当に機械の体なのだと

分かる。治療を終えた後、ふとマキは耳を澄ませる。この辺りは多くの人間が

行き交うので雑音が大きい。


「ちょっと待ってね」


マキは窓を開いて下の様子を見た。


「なんか車が停まってて、赤い服の人たちが…!13人ぐらいいるんですけど!?」


そのうちの一人がこちらに気が付いた。慌ててマキは身を隠した。

その頃、気付いたのはDAYBREAKの一人だった。


「どうした?イツキ」

「いいえ。いや、ですが…」


イツキと呼ばれた男は考える。あれは確かに女性だった。探偵団の拠点に…女性?


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