第5話「三人娘、辿る」

マリア、マキ、ユリカの三人娘はユリカが集めた情報を一つ一つ処理していく。


「まずは怪盗団MIDNIGHTとホワイトローについてね。言わずもがな、衝突

してるわ。怪盗団が盗むのはコピーできない宝ですもの。ただ今のところ軍配は

怪盗に上がっているわね」


先にも怪盗団は宝石を盗むと見せかけて古い書を盗んだ。エアの書、上巻が

盗まれた。宝石をコピーする行為によって恐らくホワイトローの隊長である

男、九井は怪盗団の次の狙いに気付いた。


「確かに、予想は出来るよね。じゃあ、九井っていう人はエアの書は諦めて

怪盗団に盗ませて別の物を守ることを優先したんだ」

「でも、よく考えてみて。これを見て」


次の資料、それは動画だ。ユリカがキャッチした監視ドローン。音声もハッキリ

拾っている。怪盗団の次の狙いについて怪盗団を探していた用心棒に伝えている。

彼らに怪盗団を捕まえることも頼んでいる。


「行政は案外、耳が早いのよ。宝石を持っているマダムローズという女性は

行政を嫌っているから干渉できない。だから間接的に怪盗団を捕らえるために

用心棒に声を掛けている。利害の一致って奴よ」

「でも、なんか引っかかる…うまく言えないけど」

「マスター…」


ユリカがマキの顔を見た。マリアも彼女を見る。


「勘だけど、この人…どうして能力者にばかり接触しているのか不思議だった。

それに全員―」


一つのカメラではその男らしき人間と彼が率いる兵士たちがテントを襲撃

していた。テント内で老婆と揉めている様だ。別の場所、ハッカーたちの

居場所を突き止めて襲撃しているのも九井が率いる部隊だ。

怪盗団とホワイトローのカーチェイスでは傍観していた。イデアのオークションでは

客を装って様子を窺っていた。それは恐らく、イデアという宝の在処を

知るためだろう。


「能力者は多数いるけど、その存在を知っている人間は普通いない。それに能力者が

全員何らかの形でイデアに関わっているのよ」

「不思議ですね。これが縁、でしょうか?」

「そうね。最高峰の宝には皆、注目する。富の為、真実の為、仁義の為…。見つけた

人間は隠していたのよ、ずっと。幾ら宝が一生遊べるほどの金だったとしても、

それを巡って争い血を流すなんて、哀しいもの。に勝る宝は無いのよ」


命。その言葉には別の意味が何か含まれているような…。だが追及できない。

それよりも考えなければいけない事がある。九井という男が何か企んでいると

いうのは確定して良い筈だが…。


「問題は金の動きね」

「あ、マスター!ハッキングに成功した映像がありますがどうしましょう?」

「見せてくれる?」

「かしこまり~!」


ホワイトローの拠点のようだ。その一室だ。


「客人が来てますね」

「えぇ。だけどよく見て。どう考えても彼らは犯罪者よ」


二人組の男と九井が会話をしている。内容はよく分からないが、ここで

マリアが見せる。


「能力者たちについて話しているみたい。ついでにマリアの魂というイデアの

在処についても」

「マリア?それに今の…!」

「マリアは聖母マリアから名前を採っているのよ。私とは違うわ。だけど

私はこの宝を知っているの」


マリアはその宝について教えてくれた。その宝の本来の姿は小さな白銀の灯。

だが行方が分からなくなっているのだ。イデアを見つけていた科学者の一人が

それを呑み込んでしまった。


「じゃあ、それはもう…」

「終わらないわ。次の誰かに受け継がれるの。次のマリアにね」


またもや複数意味があるような言い方だ。歯切れの悪い話でモヤモヤする。


「フフ、混乱させてごめんね。だけど事実よ。その炎を持った女性を

PAILMOONというサーカス団の団長をする老婆ではないかと予測したけど

九井の予想は外れたみたい。既に老婆から別の人間に移っていたから」

「その人間をホワイトローは血眼になって探しているんですね?」

「そういうこと。中々飲み込みが良いじゃない。探偵の助手なだけはあるわね」


照れ臭い。だって自分は探偵の助手というにはまだまだ足りない部分があるから。

だけど褒められて嬉しい気持ちも少なからずある。更に推測を進めていく。

監視カメラの方でも動きがあった。

九井が何かを操作して監視ドローンの映像に目を向けている。


「用心棒たちが誰かを捕らえたことを確認したみたいね。電話をし始めたわ」

「大丈夫かな…」

「安心しなさい。貴方の信じる人たちは、そんなに弱い人なの?」

「そんなことは無いです…って!」

「知ってたわよ。私には隠し事は出来ないわよ。そういう能力があるの。そうだ。

貴方にこれをあげるわね」


ウエストポーチには幾つかの小道具が入っている。その道具類は全て不思議な

力が使えるらしい。それらが活躍するのはもう少し後だ。マリアから全ての

使い方を教えて貰った。彼女の知識をデータにしてユリカにも学ばせた。


「ふっふっふー!マスターのサポート性能が格段に上がりましたよ!」


嬉しそうだな、ユリカ。


「でも、こんなものを良いんですか?」

「さっきも言ったでしょう?私にはもう時間が無いから、全部あげる。嘘吐きな

あの男に使われるなんて嫌だから」

「ありがとうございます。大事に使いますね」

「絶対貴方の役に立つ。これを言わせて?貴方はもう過去の世界では死んだことに

なっている。だけど今、生きている。それはね、神様が貴方にはまだやることが

あって死ぬべきでないとされたから。この先、必ず何かある。貴方がすべき

事は人と人を繋ぐこと。言いたいことはハッキリ言うの。貴方の言葉には

力があるから」


マリアはスッと表情を和らげた。それから暫く、話し続けた。主に色恋沙汰の

話で盛り上がった。異性がいる前ではできないけど、女の子だけの時だって

こう言う話は盛り上がるのだ。マリアはかつて付き合っていた男性がいたらしい。

今では別れてしまったが、その理由を掘り返すのは御法度。マキには未だ好きな

異性はいない。あまり興味が無かったし、異性と話すのは気まずく、それに

学校にいた頃は男子生徒といざこざがあった。

盛り上がる事、10分ほど。

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