第4話「三人は追う」
バーの中には四人いた。それぞれがサシで戦っている。その場に鉢合わせたマキが
思わず叫んだ。少し先の危険を知らせるために。
「―アーサー、危ない!!」
その声は僅か遅かった。すぐに扉を蹴破って乱入してきた童顔の青年により
アーサーは取り押さえられた。その事にも動揺しているのだが、それ以上に
アーサーとレイは目を丸くしていた。
「そこにいるのか…!?マキ」
「マキ?」
赤いファーの付いたコートを着た男は首を傾げいている。他の用心棒も目を
あちこちに向けるが姿を視認することも、耳から声も聞こえない。誰と話しているか
分かっていないのだ。
「こっちなら、心配しなくても大丈夫だ」
アーサーはレイにアイコンタクトをとる。それだけで彼に何か策があると言っているのを理解したレイは窓ガラスを破り逃走する。ふと背後に目を向けるもマキの姿は
既になかった。
「―ッ、はぁ!?」
体を起こした。しっかり自分の体だ。
「やっぱり、マスターには何かがある気がします。分からないですけど…」
「私にも分からない。それはきっと、後からどうにでもなるさ。みんながしっかり
生きていることは分かった。それだけで充分」
東京都という町自体はそれほど大きいとは思わない。人が多くても、同じ能力者が
集まることなどあるのだろうか。
「だったらマスター、この謎を暴きましょ!私、超高性能AIユリカは既に
幾つかの監視ドローンのコード等を解析し、データのコピーに成功しています!
今から二人で確認しましょう!」
「怪盗団にも用心棒にも関わっている、そして両者について深く理解している
誰かだと思う。監視ドローンを操り、情報を集めていても隠し通すことが出来る
正当な理由を作れる誰か…」
「それだと恐らく行政のホワイトローかもしれません。今じゃ、東京都で大きな
権力を持っていますから、それを考えておきましょう」
すみません、借りますね、パソコン。
少し心は痛むが、気になることを調べるためにパソコンを拝借してスマホと
繋げた。後は勝手にユリカが進めてくれる。四つの動画が同時に見える。
「あれ?」
「やっぱり、マスターも気付きました…?」
ユリカが四つの画面を拡大した。狡猾そうな男がどの映像にも存在する。それぞれ
別々の日時なので同じ人間がいても可笑しくないのだが…。
「そのうちの一つは現在、荒廃している池袋という町にいるハッカー集団との
戦いです。彼らをホワイトローは追い回しているようですよ。ホワイトローについて
引っ張り出せるだけの情報をコピーしますか?」
「お願い。そしたら、それをコピーしてそのデータはすぐに消去して。今回ばかりは
アナログの方が隠しやすいだろうから」
「了解です!」
ユリカに任せる。自分に出来ることは少ないだろう。だが事はすぐに動く。
この事務所に誰かが来た。その人物がマキを導く一人となる。
「驚いちゃった。私たち、全部が同じね。なら、私はこれだけ名乗っておくわ。
マリア、そう呼んで。貴方だけしかいないところを狙って来たの」
「マリア…」
長い黒髪の美女が自分だなんて信じられない。そんな顔をしていると
「貴方の代で、終わるから大丈夫よ。そのうち分かるわ。貴方は何かを
探してるわね?」
「…」
「どんな人間にも使命があると思うの。自覚している人間はいないけど。だけどね、
大きな嵐が起こった日、みんな同じことを考えた。不思議な力を手に入れて、次こそ
誰かを守れるようにと、次こそ役に立てるようにと…みんなが思ってる。同じ
なのに、誰も気付いていないのよ」
同じことを考えているのに、どうして手を取り合えないのだろうか。これまでに
能力者たちと出会って来たのに、彼らはいがみ合ってばかりだ。一つの宝を元に
もうすぐ全員が集まる。同時に別の計画も進められている。
「ねぇ、もう少し話をしていっても良いかしら?」
「聞かせてください」
「リラックスして聞いて頂戴。それに、貴方のことも聞きたいから。貴方が
どんな人間で、何が好きなのか…残り少ない時間だけど一緒にお話ししましょう」
「時間が、少ない…」
深刻な言葉とは裏腹にマリアの表情は穏やかだった。
「未来が死んでも過去が生きているのなら何でも変えられるわよ」
スマホの着信音、ユリカが情報を持ってきたのだ。コピー機をセットし、
資料を印刷する。結構な束だ。顔写真がある。
「この男ね…超能力者の犯罪を取り締まる組織の隊長よ。何かあるんじゃないの?
能力者対策とか」
「ありますよ。対能力者用の武装とか、お金が色々動いているんですけど…」
「お金かぁ…それの推理は私には難しいよ」
「私の方で何とか考えてあげる。一緒に考えましょう?」
マリアとマキ、ユリカ。三人は静かな探偵事務所で能力者たちに接触する男の謎を
追及する。彼女たちの推理が男を追い詰めるか、それとも男が彼女たちの推理の
一歩先を行くのか…。もうすぐある大きな祭りが控えていた。
イリュージョニストたちも既にこの渦の中にいた。
「団長が死んでも、今もここは変わらねえな…」
老婆は命を賭して守った。それが狙われていることを彼らは知った。そして相手を
撃退することを決意する。
「マリィ…否、マキってのが本名だったんだな…」
「あぁ、ずっとあの人は本名を名乗って無かったらしい」
集まり出した。混沌とした状況は男にとっては想定内かもしれない。
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