違和感


 ひとまずクロムウェル領のことはエドワードとハイプリーストに任せることにした。

 メリーアンが不安がっていても仕方がない。

 そうは思うものの、メリーアンは気が気じゃなくて、気づいたら博物館に来ていた。閉館間際の博物館は、静かだ。


 なんだか心も身体も、ぼろぼろになっているような気がした。

 幻想の湖で微笑むフェアリークイーンの人形を見る。

 するとクイーンの目が、きらりと光ったような気がした。


 そういえば妖精たちは、いつかアストリアに戻って来られるように、博物館にやってくる人間たちを観察していると言っていた。いつか人間が……それこそ進化して、愚かでなくなった時を見計らって、この地に戻ってくるのだろう。


(私、本当に管理人に向かないわね)


 世界で一番、妖精の展示室の管理人に向いていないような気がする。

 進化した人間を見せるどころか、人間の醜い部分ばかりを見せているような気がして、メリーアンはため息をついた。


(なぜ私だったのかしら?)


 メリーアンには素質があるというけれど、その素質とは、一体なんなのだろう。


(浮気されて発狂したような女に管理人を任せるなんて……クイーンも変わり者だわ)


 おまけにその浮気のせいで、とんでもないことに巻き込まれてばっかりだし、とメリーアンはため息をつく。


 ──なぜ私が。


 誰でも人生で一度は思うことだ。

 

(人生って、そんなものなのかしら……)


 ぼけっと展示室を見ると、ふとメリーアンは違和感を感じた。


(まただ……一体、何?)


 この一月と少し、メリーアンは何度もこの展示室に足を踏み入れた。

 だからこそ感じた違和感だったのかもしれない。


 メリーアンは人形に一つずつ近づいて、その表情を観察した。

 この人形は名だたる人形師によって作られたものだ。

 一つ一つ、まさに職人が魂を込めて作ったものだった。


(あれ?)


 メリーアンはある人形の前で、足を止めた。


(待って、これ……)


 その人形は、リリーベリーの人形だった。

 桃色の髪に、アメジストの瞳。

 蝶のような、透き通った羽は、触れると溶けてしまいそうな、そんな代物……だったはず。


「嘘……」


 メリーアンは人形を観察して、眉を潜めた。


「これ……」


 


 人形が、別のものにすり替えられている……?


 




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