禁忌④
──純真とコスモスのリルレナ。
リルレナは美しく純粋無垢な少女神だ。
だからこそ、そんな無垢な少女を守るためにレジェという守護神がいる。
「このアストリアに広がる神殿には、各々教えがあり、戒律があります。信徒たちの中でも、その教えを忠実に守り修行するものをプリーストと呼ぶのです」
神の教えを守るからこそ、神から力を与えられ、神聖術が使用できるようになるのだという。
ハイプリーストがミルテアの言葉を引き継いだ。
「ではその戒律を破るとどうなるか? ……人とは心の弱い生き物です。すぐに神聖力がなくなるわけではありません。ただ、力が徐々に弱まっていきます」
(力が徐々に弱まる……)
完璧な状態から、少しでも力が欠ければ、どうなるか。
(当時はミアズマを完璧に浄化できていたと思っていたけど……力が欠けていたから完璧ではなくて、時間をおいてまた出てきた……)
そう考えれば、全て辻褄があう。
メリーアンは嫌な予感がした。
リルレナの禁忌とは一体なんなのか。
「クロノアの禁忌は、時間への干渉です」
「時間への干渉?」
「ええ。クロノアの最高神官は、時間を操れます。過去、未来……しかしそれらに干渉し過去や未来を変えることは禁忌とされています。干渉した瞬間、その者は力を剥奪される。クロノアの禁忌はそれほどまでに強烈な罰が与えられます」
「じゃあ……じゃあ、リルレナの禁忌は、一体なんなの?」
「リルレナは、少女神です」
(少女……)
「純真無垢、天真爛漫な、子どものような存在なのです」
──少女とは、母親ではない。
「リルレナの禁忌とは、〝妊娠〟です」
*
メリーアンは呆然としていた。
頭の中が真っ白になる。
(ユリウスは……そういえばララが妊娠してるってこと、陛下に報告したのかしら……)
ララのお腹は、この間見てやっと少し膨らんでいるのがわかった程度だ。
おそらく妊娠期間は三ヶ月程度。
リルレナの神殿も、国王も、知らなくても説明がつく。
「禁忌は、神殿に入ってから教えられます。私は交流があったので知っていたのですが、ユリウスさんが知らなくても、仕方ないかと……」
ミルテアは気まずそうに言った。
「……でも、リルレナの聖女なら、知らないはずないんです。しっかり勉強すれば、それくらいのことは回避できますから」
(ララ、あなたは知っていてユリウスとしたの? それとも……勉強も何もせずにいたの?)
メリーアンの頭の中がだんだん、ぐるぐるとしてくる。
「おい、貴族にも在家のプリーストがいるぞ。それこそ男も女も。そういう奴はどうなってんだ?」
エドワードが怪訝そうに聞いた。
「妊娠期間は一時的に神殿を離れるなどして、神の目に触れないようにするのでしょう。ただ、子どもをもった人は、たとえ貴族であっても、ある程度の神聖力しか得られません」
それでもリルレナに仕えるということは、その人によほど、生まれ持っての信仰心があるのだろう。
「メリーアンさん。少しあけすけな言い方になって申し訳ないのですが、いいですか?」
「……ええ」
「聖女様とユリウス様が事をなしたのは、一体いつ頃か、わかりますか?」
「……」
最後の旅。
クロムウェル領の浄化作戦の前日。
──たった一度のその行為で、ララは子どもを宿した。
パズルのピースがぴたりとはまったような気がした。
だから、クロムウェル領にだけミアズマが残ってしまったのだ。
浄化作戦の前日に、ララは子を授かったのだから。
ララはその日に、よりによってクロムウェル領浄化の前日に、その力を失ってしまったのだ……。
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