禁忌③

 ミアズマの性質。

 それは浄化しない限り、体内に残り続けるということだ。

 体内に残ったミアズマは、ごく少量であっても肉体に影響を与え続ける。


「でもライナスさんの奥さんは、ちゃんと神殿にも通って浄化していたはずよね……?」


 メリーアンは呟いて気づいた。


(まさか……)


「ごく最近まで、もちろん通っていたはずです。しかし……ミアズマランドが浄化されてからは? クロムウェル領のミアズマランドが浄化されてからは、一体どうなのでしょうか?」


 それはメリーアン自身も身をもって体験していたことだった。


(私はあれから、浄化を受けていない……)


 ──なぜなら、ララによってこの地上のミアズマは全て浄化されたと聞いていたのだから。


 ……いや、浄化されたことになっている、というべきか。


 気づいたら、メリーアンの顔も真っ青になっていた。


(ミアズマは妊婦のお腹の子供にまで影響を与えると言われているはず)


 しかし二人の報告によると、胎児からミアズマは検出されなかったという。

 母体と胎児の関係は密接だ。

 母体がミアズマに感染し続ければ、少し期間を空けて胎児もミアズマに感染する。


(でも、胎児からはミアズマは検出されなかった)


 つまりだ。

 ライナスの妻は死亡するごく前にミアズマに感染していたことになる。

 だから胎児にまで、ミアズマが回らなかったのだ。

 そしてその点を考慮すると、死亡原因はただの難産ではなく、ミアズマの影響下にある出産が、直接の原因だったことになる。

 おそらく、彼女は自分自身がミアズマに感染していることに気づいていなかったのだ。


 なぜなら、聖女によってミアズマは全て浄化されていたのだから。


「つまりだ。一度はミアズマは浄化されたが、その後になってもう一度湧き始めてたってことか?」


「その可能性が高いと思われます」


「おいおいおい……」


 エドワードが髪をくしゃりと握った。

 メリーアンの鼓動が早くなっていく。


「……どうして? だってララは聖女よ。彼女が浄化したなら、全てのミアズマは消えるはず」


「……浄化の力が足りなかったのかもしれません」


「でも、一番最初に浄化したサウスアストリアのミアズマランドでは、もう魔獣が出ないって……」


 そこまで言って、メリーアンははたと気がついた。


(エイダが言っていた、魔獣……)


 ミルテアの話だと、エイダの話も辻褄があう。


(ミアズマが、また湧き始めていたんだわ……)


 おそらく、ララの力が、浄化の旅の途中で弱ったのだ。

 だからサウスアストリアのミアズマランドは完璧に浄化され、最後に残ったクロムウェル領のミアズマは、浄化し切れなかったのだ。


「でも、なぜ? 一体なぜ弱ってしまったの?」


 震えるメリーアンに、ミルテアは言う。


「お二人は、リルレナ神の禁忌はご存知ですか?」



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