禁忌②
「違うわ。彼女、妊娠しているのよ」
「……」
「妊娠しているから、別れることになったの」
メリーアンはそう言って、肩をすくめた。
ミルテアは黙りこくっている。
「あー、ミルテア? ごめんなさい。刺激が強い話だったわよね。軽率だったわ」
清らかなクロノアのプリースティスであるミルテアにこんな話をすべきではなかったか。
そう思っていると、ミルテアの頬から冷や汗が流れ落ちた。
「……すぐにエドワードさんを呼んできてください。私はハイプリーストと……ライナスさんをお呼びしますので」
「え?」
「早く!」
ミルテアはすごい勢いでメリーアンの肩に掴みかかった。
その必死の形相に、メリーアンはたじろぐ。
「わ、分かったわ。神殿につれてこればいいのね?」
「はい、お願いします!」
事情はよくわからないが、どうやらエドワードとハイプリースティス、そしてなぜかライナスを集めないといけない理由がミルテアにはあるようだった。
「事態は一刻を争います。できるだけ早く、メリーアンさんの故郷に伝令を……」
*
エドワードはすぐに見つかった。
通りをぶらぶらと歩いていたのだ。
言われた通り、ひっ捕まえて神殿に連れてきた。
招かれた部屋に入ると、すでにミルテアとハイプリーストが神妙な顔で二人を待っていた。二人は急いで席につく。
「お待たせ。ライナスさんは?」
「……ショッキングな内容になるかもしれないので、ライナスさんには後ほどお伝えしようと思います」
ミルテアとハイプリーストは目を合わせて頷いた。
「おい、何があった?」
エドワードは二人の気配を察したのか、鋭い表情で二人を見る。
「順を追ってお話ししましょう」
そう言って話を切り出したのは、立派な口髭を伸ばした、ハイプリーストだった。
「──ひと月ほど前、この街にライナス・オルトという男性がやってきたことは、ご存知でしょうか」
「ええ、いつも庭でぼうっとしているライナスさんのことよね? 遺体をのせた荷車を押すのを手伝ったから、よく覚えているわ」
エドワードがなんの話だという顔をするので、ハイプリーストが軽く説明した。
「ライナス殿は、出産時に死亡した妻とその子供を荷車に乗せて、ここまでやってきました。ノーグ村からです」
「ノーグ村? クロムウェル領のすぐ近くだな。しかしずいぶん遠くから荷車を引いてきたもんだ……」
エドワードは眉を寄せた。
「はい。我々は彼の気持ちを汲んで、妻と子の死を受け入れるまで、遺体を埋葬せず、時を戻して地下の安置所に遺体を安置していました」
それが一体なんの関係があるというのだろう?
メリーアンとエドワードは目を合わせる。
「それからしばらくして、ライナスさんは奥さんと子供の死を受け入れました。だから私とハイプリーストで、簡単な葬儀を執り行うことにしたんです」
「……それで?」
メリーアンは息を呑んだ。
「埋葬直前。私たちは念の為、遺体の最後の浄化を行いました。しかしそこで気づいたことがあるのです」
ミルテアはぎゅ、と手を握って、メリーアンを見た。
ふと、メリーアンは思い出す。
(そういえば葬儀の時……ミルテア、何か言いたそうな顔、してたっけ……)
メリーアンは奇妙な胸騒ぎがして、ゆっくりと瞬きをした。
目の前にいたハイプリーストが、深刻な面持ちで告げる。
「──浄化の結果、女性の遺体からごく少量のミアズマが検出されました」
けれど、とハイプリーストが続ける。
「胎児からミアズマは検出されませんでした」
ミルテアが言葉を引き継いだ。
「メリーアンさん、エドワードさん、このことの意味がわかりますか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます