第5章 盗まれたリリーベリー
禁忌①
──午後の神殿の中庭。
メリーアンはぼんやりとアルストロメリアを眺めながら、考え事をしていた。
「今晩で最後か……」
ひとまず、思い残すことはないくらいに、全力で仕事には取り組んだと思う。パブとルルルも仲直りさせることができたので、メリーアンとしては大満足だ。たとえここでクイーンに管理人に相応しくないと言われたって、悔いはない。
(まあでも、そうしたらこれからどうしようってなっちゃうけど……)
ただ、試用期間だけでも、かなりの金銭を得ることができた。
これだけの資金があれば、慎ましく暮らしていればしばらくは宿や食事に困ることはなさそうだ。
メリーアンの心は穏やかだった。
自立しているお陰で、飢えることもなく、ユリウスへの依存も薄まってきた。
(本当、少し前までは考えられなかったわ)
波乱万丈。
そんな言葉がメリーアンの脳裏に浮かぶ。
まさしくそんな言葉が似合うような人生だった。
(もう何も起こりませんように!)
そんなことを思いながらグーっと伸びをしていると、神殿からミルテアが出てきた。
「メリーアンさん、こんにちは」
何やら腕にパンをいっぱいに抱えている。
「今日は私が食事当番だったんですけど、見てください! こんなに美味しそうなパンが焼けましたよ!」
ミルテアも最近、メリーアンのお菓子作りに影響されたのか、料理に夢中になっているようだった。
「わあ、美味しそう! 一つもらっても?」
「どうぞどうぞ」
ベンチに座って、二人でパンを食べる。
足をぶらぶらさせながら、馬鹿な話をして二人で笑い合った。
(こういう生活が、ずっと続けばいいのにな)
──だが、現実はそうもいかないようだった。
*
しばらく雑談をした後、二人はララの話になった。
「聖女様……綺麗な方ですけど、その、ちょっと独特な方でしたね」
「独特すぎるわよ。リルレナ神の信者って、みんなあんななの?」
「皆さんと言うわけではないですが……確かに少女のような振る舞いをされる方が多いのは確かですね」
ミルテアは、勉強もかねて複数の神殿の神官と交流を持っているのだという。
「でもそれがリルレナ神の本質ですから、信者もそうあることが正しいのでしょう。……たとえ、誰に迷惑をかけたって」
「ふぅん。ずいぶん自由なのね。そんな規律もなさそうな状態で、よく組織が保ってるわね」
ミルテアが首を横に振った。
「リルレナ神の信徒たちにだって、ちゃんと規律はありますよ」
「たとえば……」
「たとえば?」
ふと、ミルテアは言葉を止めた。
見れば、強ばった表情をしている。
そして、みるみるうちに、真っ青になっていく。
あまりに雰囲気が変わってしまったので、メリーアンは心配になって声をかけた。
「どうしたの?」
「……メリーアンさん」
「うん?」
「あの人……聖女様は、お腹少し出ているように見えましたけど……あれは元々の体型ですよね?」
突然何を言い出すのかと、メリーアンは苦笑した。
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