どうしてあの人が ララの葛藤④


 けれどララを待っていたのは、予想外の仕打ちだった。

 冷たい氷の刃が、喉元を掠る。


 ──次にメリーアンを傷つけたら、殺す。


 ララは恐怖で凍りついた。

 硬直するララを置いて、エドワードはメリーアンの腰を抱き、学舎へと戻っていく。

 ララはそれを呆然と見送った。


(どうして……?)


 私は聖女で、いつも誰よりも大切にされていたはずなのに。

 私よりも、メリーアンさんを優先した?

 一体、なぜ……。


「ララ。どうして殿下にあんなことを言ったんだ」


 呆然とするララの後ろから、ユリウスが声をかける。


「……どうして? それはこっちの台詞よ」


 ララは唇を噛んで、ユリウスを見た。


「どうしてメリーアンさんは、あの人に愛されているの?」


「……」


(私が、あの場所にいるはずだったのに!)


 気づいたら、ララは怒りで震えていた。

 ユリウスは痛みを堪えるような顔をして呟く。


「……メリーアンは、もう俺とは別れた。だから彼女が誰と恋人になろうが、俺たちに文句を言う権利はないよ」


 ララはユリウスを見て、がっかりしてしまった。

 確かにユリウスは顔もいいし、鍛えているおかげか、体格もしっかりしている。けれどエドワードに比べたら、まるで平凡だと思ってしまったのだ。


(……エドワード殿下が良かった。どうして不幸になるはずのメリーアンさんが、私より幸せそうにしているの)


 ──どうして私は、幸せになれないの?


「……ララ。落ち着いて」


「……」


 俯いていると、ユリウスに声をかけられた。


「あんまり考え事がすぎると、お腹の子にもよくないよ。宿に帰ろう?」


(子ども……)


 ララははっとした

 ユリウスの言う通りだ。


(私は、この子を産んで、幸せになるの)


 これから幸せになる。なれるはず。

 そのためには、メリーアンとユリウスを早く離縁させなければならない。


「明日、もう一度メリーアンと話せないか、交渉してみるよ。俺が全部片付けるから、ララは宿でゆっくりしていて」


「……分かったわ」


 その日は渋々、ユリウスの言葉に従ったが、ララの心からエドワードの存在が消えることはなかった。


     *


 メリーアンとユリウスの離縁は、案外あっさり成立したようだった。

 神殿の入り口でこっそり話を聞いていたララは、メリーアンの心が、すでにユリウスから離れつつあることを感じ取っていた。やはり、同じ女性同士だからだろうか。そう言う部分には敏感だった。


(……もうユリウスには興味なくって、新しい人に夢中ってこと? ユリウスとの別れを悲しみもせずに、性格の悪い人だわ)


 その日の夕方。

 ララは宿の中庭で、メリーアンとエドワードについて考え込んでいた。


 メリーアンは別に、エドワードのことを好きだとか、そう言う言葉をはっきり言っていたわけではない。けれどあの二人の間には、何か親密な雰囲気を漂っているような気がしてならないのだ。 


 ……何がいけなかったんだろう?

 私が、あの人の隣に立つべきだったのに……。


 ララが、メリーアンからユリウスを奪ったことだろうか。


「それが、やっぱりいけなかった? だからあの領地の人々も、私の言うことを聞かないの?」


 つぶやいては、ため息を吐く。


「……その通りだよ。だからメリーアンを、元の場所に戻してやればいいのさ」


 ララが考え込んでいると、不意に声をかけられた。


「……誰?」


 ララは警戒したように、座っていたベンチから腰を上げる。

 振り返れば、ララの見知らぬ男が立っていた。


「……怪しいものじゃないですよ」


「怪しい人はみんなそう言うわ」


「ふふ。そうですよね。じゃあ、これ。身分証」


「……」


 提示された身分証を見て、ララは訝しげな顔になる。


「……あなた、私になんの用事ですか? 私、あなたと関係ありませんけど……」


「いえ、二人の利害が一致するんじゃないかと思いまして。取引をしにきただけです」


「取引……?」


 男はこくりと頷いた。


「僕はメリーアンが邪魔だ。あなたは今、メリーアンが必要なんじゃないですか? さっき、散々つぶやいていたでしょう?」


「……そうだったら、なんなの?」


「僕にいい考えがあるんです」


 男はにっこり微笑むと、ララに小さくささやいた。


「それ、は……」


「なぁに。うまくやれば人は死にませんよ。領地の人たちを人質にして、少し揺すってやればいいんです。そうすれば元通り。ユリウスとメリーアンはまた仲良くやっていきますよ。そしてあなたは、新しい人とうまくやればいいさ」


「そんなに上手くいくかしら……?」


「ええ、きっと」


 そんなうまい話があるものかとララは疑っていたが、男の提案は魅力的だった。


「具体的にどうすればいいの?」


「簡単さ」


 男は中に人形の入ったランタンのようなものを差し出した。


それ・・を言われた場所に埋めてくれればいい」



 そうすればあの地は──……。


 

 男の言葉に、ララはごくりと唾を飲んだ。




第4章 終

お疲れ様でしたー!

次回、いよいよ最終章です!

最後までお付き合いいただけますと幸いです。


全然関係ないのですが、私、メリーアンの容姿ってどこかで描写してましたでしょうか?

メリーアンの容姿を書きたいのですが、金髪だったか茶髪だったか、目の色等何も思いだせず……。

もしかして、書いてなかったんですかね?( ;∀;)

(自分では金とか、茶色あたりかな?と思ってました……)








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