どうしてあの人が ララの葛藤③


「どうも。エドワード・キャンベルと言います。私はメリーアンに用事があるもので、悪いが彼女をお借りしても?」


 ──エドワード。


 メリーアンのそばに立った美しい人はそう名乗った。

 その名前に聞き覚えがあったララは、彼がアリスの言っていた「第三王子」であることを瞬時に思い出した。


(彼が……エドワード殿下なの?)


 驚くべきほど整った容姿をした人物だった。

 眩く輝く銀色の髪に、紫水晶のような瞳。少し鋭い視線は冷たい印象を受けるが、メリーアンを見つめる時にだけ、その瞳の中に熱がちらつくような気がした。


(嘘……)


 どうしてあんなに美しい人が、メリーアンさんをそんな風に見るの?

 どうして? ユリウスと別れたばっかりのメリーアンさんが、あの方に。


 そんなことを思っているうちに、ふと以前行ったお茶会で、令嬢たちが話していたことを思い出す。


 ──王太子殿下初め、王家の皆様は大怪我をされたエドワード殿下以外皆結婚されていますから、王族以外で一番条件のいい結婚相手は、ユリウス様ではありませんこと?


 ──エドワード殿下は、怪我で寝たきりだと聞きますしね……。


 見たところ、エドワードに怪我はなさそうだったし、普通の状態のようにしか思えなかった。

 実際のところはマナをコントロールする器官が壊れてしまっているのだが、それは本人だからこそ分かることで、他人から見れば全くわからないだろう。


(じゃあ、じゃあ……今この国で一番価値のある人は、エドワード殿下じゃないの……)


 メリーアンさんはユリウスよりも価値のある人と、一緒にいるの?


 ──国で一番価値があるって言ってたから、ユリウスを選んだのに。もしもあのお茶会の席でエドワードが元気だと聞いていたなら、きっとエドワードを選んでいた……。


 不意に心にそんな言葉が浮かんできて、ララは慌てて首を横に振った。


(ち、違う。私は大いなる流れに従っただけ。自然とそういう成り行きになったの)


 そう考えながらも、目の前のエドワードのあまりの美しさに、頭がぼうっとしてしまう。


(……不釣り合いだわ)


 メリーアンとエドワード。

 ララには凡庸な女性とキラキラした王族の、奇妙な組み合わせにしか見えなかった。


(そうだ。なら、釣り合いが取れるようにすればいいんだ)


 長年の癖だったのだろう。

 誰もがララが声を掛ければ、頬を赤くした。

 きっとエドワードだって、例外ではないはず。

 そう思ったララは、去ろうとするエドワードの背に、気づいたら声をかけていた。


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