仲直り④

「パブはルルルとは、もう一緒にいたくありませんか」


「……」


 ルルルの言葉に、パブは体を震わせた。

 

「確かに……パブを見ていると、人間たちにされた仕打ちを思い出して、辛くなることもあります」


 だけど、とルルルは言葉を区切った。

 しばらく湖を見ながら、ぽつりと呟く。


「それよりももっと辛いことがあります。パブがそばにいないことの方がずっとずっと苦しい。パブがいないなら……そんなの、そんなの……」


 ──メリーアンが素直であれば、妖精たちも素直になる。


 震えるルルルの声を聞いて、耐えられなくなったのか、パッとパブが駆け出した。


「きゃっ」


 そのままルルルに突進する。

 ルルルはパブを抱きとめて、地面に尻餅をついた。


「……泣かないでくれ、ルルル」


「……」


「本当は……本当は、ずっと一緒にいたい。でも俺と一緒にいるとルルルが傷つくなら、離れようと思ったんだ」


 ルルルは首を横に振った。


「パブはルルルのことが大好きなのですね。じゃあ、ルルルのわがままを聞いてください」


「……」


「ルルルは、パブと一緒にいられない方が苦しい。だからもう、ルルルをこれ以上苦しめないでください」


 パブは静かに頷いた。

 ルルルはぎゅう、とパブを抱きしめたのだった。


     *


(はあ、よかった)


 メリーアンはホッと胸を撫で下ろした。

 もうじき夜明けだ。

 なんとか二人を仲直りさせることに成功した。


「……嬢ちゃん、俺の人形は、また倉庫行きなのか?」


 パブがそう言って、つぶらな瞳をメリーアンに向ける。


「いいえ、ちゃんとあの場所に……ルルルの隣に展示するわ。これからはずっと一緒よ」


「そうか」


 パブは納得したように頷いた。


「悪かったな。色々とひどいことを言って」


「いいえ? あなたたちのおかげで、私も心の整理がついたんだもの。感謝してるくらいよ」


 (まあ、相変わらずララのことはちっとも理解できないけどね)


 メリーアンは、肩をすくめた。


「パブ、帰りましょう」


「そうだな」


 ルルルの腕の中に抱かれていたパブが、嬉しそうに尻尾を振った。


(はぁ。本当によかっ──)


 メリーアンがそう思いかけた時だ。

 パブの体がパッと光った。

 メリーアンは思わず目をつぶる。


「……?」


 それからそっと目を開けると、そこにいたのは……。


「ええええ!?」


 ──ウサ耳の生えた、壮年の男性だった。


「ちょ、え? 何それ!?」


「フン。人間には滅多に見せないがな。まあ嬢ちゃんになら、俺のもう一つの姿を見せてやらんでもない」


 渋い声で話しながら、おそらくパブと思われる男性は、ルルルを肩に乗せた。


「帰るか」


「はい。出発なのです」


(何これ? え?)


 メリーアンがポカンとしている間にも、二人は森の中へ消えてしまう。

 完全にその姿が見えなくなる前、ルルルが振り返って、メリーアンに手を振った。 


「ありがとう、おねいさん。また会いましょう」


「あ、あはは……」


 メリーアンもその手に応える。

 呆然とその後ろ姿を見ながら、メリーアンは呟いた。

 

「……ま、まあ、解決したならなんでもいっか」


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