おかえり


 翌朝。

 メリーアンは妖精の展示室に立って、ルルルの隣を見ていた。

 そこには作業員たちがいて、何やら新しい人形を運び入れているようだ。


 作業員たちが設置していたのは、修理から戻ってきたパブの人形だった。

 ふわふわとしたパブの人形は、ルルルの隣にちょこんと設置された。パブもルルルも、空を見上げるような格好をしている。


「……おかえり、パブ」


 メリーアンがそう呟くと、パブの瞳がきらりと光ったような気がした。

 何やら他にも作業があるようだったので、邪魔にならないうちに退散しようとすると、ふと何やら違和感を感じる。


「……?」


 なんだろう。

 よく見慣れた展示室なのだが、何かが違うような……。


(作業中だから、そう思うのかしら?)


 メリーアンが首を捻っていると、いつの間にやってきたのか、隣にエドワードが立っていた。


「よう。どうかしたのか?」


「……いいえ、なんでも。ただパブの人形が無事戻ってくるのを見届けようと思って」


 そう言うと、エドワードもルルルとパブの人形に視線をやった。


「随分苦労していたみたいだが。なんとか問題は解決したみたいだな」


「ええ、本当になんとかね」


 二人で展示された人形を眺める。


「でもよかったわ。今夜で最後だから、なんとか仕事はやり遂げられそう」


「……これからも、ここにいるんだろう?」


 エドワードはメリーアンを真っ直ぐに見た。

 メリーアンもエドワードを見つめ返す。


「クイーンがいいというのなら。私、ここで働きたいわ」


「許可するに決まってるさ。あんたは本当によくやった」


 まあでも、とエドワードは続けた。


「もしだめだったとしても……うちに来ればいい」


「……へ?」


 うちに来る、とはどういう意味なのだろう。

 

(まさか……エドワードのところに、って意味?)


 そう考えて、メリーアンはなぜかどきりとしてしまった。

 

(いやいや、そうじゃないでしょ。大学とか、どっかで働けばいいってこと?)


 だんだん顔が熱くなってきたような気がした。

 どういうこと? と聞き返す前に、エドワードはさっさと展示室から出てしまう。


「あ、ちょっと!」


 ──悲しい別れもあれば、出会いもある。


 メリーアンは追うか追うまいか迷って、結局追うことにした。

 展示室を出る前、振り返ってパブを見る。


(それにしても、みんな知らないのよね、パブのもう一つの姿)


 それを知れただけで、この博物館で働いてよかったと思えたメリーアンなのだった。



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