仲直り③

「パブ。ルルルは平気ですよ」


 突進を続けるパブを、ルルルが止めた。

 パブはぎくりとして、ルルルを見る。


「……泣いてたじゃないか」


「……それは……パブのことを考えていたから……」


「……」


 二人の間に奇妙な沈黙が落ちる。

 メリーアンはパブの体がブルブルと震えていることに気づいた。

 話し合うことが怖いのだろう。


「ねえパブ。お腹減ってない?」


「……」


「見て、パウンドケーキを焼いてきたの。私、今度は上手にできたと思うわ」


 こんな時になんだという顔をされたので、メリーアンはパブは口にパウンドケーキを突っ込んだ。


「はいどうぞ」


「むぐっ!?」


 パブは目を白黒させた後、パウンドケーキを飲み込んで怒った。


「何するんだお前っ! 俺を殺す気か!」


「だってお腹減ってそうな顔してたから……」


「だからって突っ込む奴があるか!」


 パブがギャンギャン怒る。

 それを見たルルルが、クスクスと笑った。


「パブ。口の周りに食べかすが付いてますよ」


「ム?」


 ルルルはパブの口周りを拭ってやった。

 パブは照れたように、舌でぺろぺろと鼻を舐める。


「……チョコレートの匂いにつられてやってきた俺が馬鹿だった」


「ごめんなさい、パブ。色々と悪かったわ。だけど……私のさっきの話、パブは聞いてたわよね?」


「……」


 パブはちらっとメリーアンを見て、フンと鼻を鳴らした。


「結局仲直りできなかったんだってな。ご愁傷様なこった」


「……うん。だけどね、それは私が納得して、いえ、もちろん辛いのだけど……でも自分で選んだことなの」


 メリーアンは選んだ。

 ユリウスと別れることを。

 でもパブとルルルは違う。

 本当は一緒にいたいのに、そうできないなんて、そんなことは悲しすぎる。


「私、もうこの博物館での試用期間が終わるの。だから最後に、できるだけのことはしておきたくて。ずっと一緒にいたいって思ってる二人が離れてしまうなんて、悲しすぎるわ」


 そう言うと、パブはしばらくおしだまったあと、こちらにお尻を向けてぽつりと呟いた。


「……ルルルは俺を見たら、人間にされたことを思い出しちまうだろ? 一緒にいると、お互いを傷つけるハリネズミみたいになっちまう。だから俺は、ルルルのそばにいたくないと思った」


 パブのお尻は震えている。

 メリーアンはなんとなく、パブの気持ちが手にとるように分かった。

 きっと、パブもルルルとずっと一緒にいたいのだろう。

 再会して、改めてそう思ったのかもしれない。


「……俺は自分勝手なやつだ。傷つくお前を見るのが辛いから、逃げている」


 

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