仲直り①

「こんばんは、ルルル」


「……」


 幻想の森の湖には、ルルルが一人でポツリと立っていた。

 ルルルはぽわんとした顔で、メリーアンの顔とバスケットを交互に見つめる。


「……いい匂いがします。お菓子の匂い」


「そう。お菓子を焼いたの。よかったら一緒に、パウンドケーキ、食べない?


 バスケットの蓋を開けると、焼きたてのパウンドケーキの香りがふわりと広がった。

 ルルルの顔に笑みが広がった。

 メリーアンは切り分けたパウンドケーキをルルルに渡す。

 二人は並んで、湖のそばに腰をおろした。


「美味しい……」


 はぐ、と頬張っては、ルルルはとろけそうな顔をする。

 メリーアンもパウンドケーキを一口齧った。プレーンな生地とチョコレートのほろ苦いアクセントに、思わず頬が緩む。


 しばらく二人でケーキを食べながら、湖を見つめていた。

 メリーアンは少ししてから、話を切り出した。


「あのね、この間は無神経なことを言ってしまって、本当にごめんなさい」


「……おねいさんが謝るべきことが、何かありましたか?」


 パウンドケーキの食べかすを頬につけたルルルが、首をかしげる。

 メリーアンはそれを拭ってやりながら、苦笑した。


「ルルルとパブのこと、全然知らないのに、話し合って欲しいなんて言っちゃったこと」


「……無神経だとは思いません。知らなくてとーぜんなのです」


 そう言って、ルルルは悲しそうな目をした。


「話し合うことって、結構勇気がいるわよね」


「……」


「自分だってできないくせに、偉そうに言うのもどうかと思って……」


 メリーアンは湖を見ながら呟いた。


「私も喧嘩しちゃった人がいるの。それで、怖かったけど、話し合ってみたわ」

 

 ルルルは興味深そうな顔で、メリーアンを見上げた。


(仲直りできたよ! って言えれば、どれだけいいか)


 でも、マグノリアは嘘をついてはいけないと言った。

 だからメリーアンは本当のことを話す。


「あのね、お姉さん、だめだった」


「……だめ?」


「うん。二人でずっと一緒にいるって選択は、できなかったわ」


 話し合った結果だった。

 ユリウスも自分の事情を素直に話しただろうし、あの話を聞いても、メリーアンはやはりユリウスを許せる気にはなれなかった。


(わからない。時が解決してくれるのかな)


「ごめんなさい。あまりいい話をしてあげられなくて。でも、わかったこともあるの」


「分かったこと?」


「ええ。ひどいことをされても、裏切られても、私はあの人が好きだった。だからずっと苦しかったんだって」


 今でも時々夢なんじゃないかと思う。

 ユリウスと過ごしたあの十年の続きを、目が覚めたらまた見られるのではないのかと。


「ルルルはパブのことが、大好きなのよね。何があっても、愛してるのよね」


 深い深い愛だ。

 それゆえに、すれ違ってしまう。

 



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