ありふれた浮気①


 きっと死ぬまで後悔する。

 あの日あの時、ララと体を重ねてしまったことを。


 それでも責任は取らなければいけない。

 俺は、ララの一生を奪ったのだから。


     *


「初めまして。私、メリーアンよ。あなたの名前を教えて?」


 初めて会った時。

 そう言ってにっこりと笑うメリーアンに、ユリウスは一目で恋に落ちた。

 小さい頃は人見知りで、周りの貴族の子どもたちとも馴染めなかったユリウスにとって、そんな風に笑いかけてくれる女の子は、メリーアンだけだったのだ。そのあたたかくて幸せそうな笑顔が、ユリウスは大好きだった。


 ──ユリウスとメリーアンの結婚は、政略結婚というに近しいものだった。

 仲が良かった両親同士が、子ども同士を結婚させようと、そんな約束をしたのだ。

 それでもユリウスは、幼い頃からメリーアンのことが大好きだったし、成長してもメリーアンを愛していた。それだけは確かだ。


 しかしクロムウェル領は昔からど貧乏で、メリーアンには多くの苦労をかけてしまった。普通ならしなくてもいい苦労を、彼女は今までにいくつ経験してきたのか。考えるだけでユリウスまで心苦しくなってしまう。

 けれどそんな時でもメリーアンはいつだって笑顔だった。


「いつものことじゃない。どうにかなるわよ」


 そう言って、自分ができうる限りの努力をしていた。

 ユリウスは両親が病気で死んだ時も、そんなメリーアンに支えられたおかげで、なんとか立ち直ることができたのだ。


 ただ、若くして爵位を継いだユリウスが、いつもプレッシャーを感じていたことは確かだった。


 その昔、まだクロムウェル領が栄えていた頃は、伯爵位の他に、男爵位と子爵位、そしてそれらにあてがわれていた領地も持っていた。

 しかしミアズマランドと化してから日々借金は嵩み、ユリウスの代ではもうクロムウェル伯爵以外の全ての爵位を売り払ってしまっていた。

 領地を得るにも、こんな領地を誰が買うと言うのか。

 騙し騙しやってきてはいるものの、そろそろクロムウェル領は、限界を迎えつつあった。


(……俺たちの孫の代まで持つかどうか、怪しいところだな)


 苦しい中でも、領民たちは笑う。

 ユリウスは領民たちが大好きだった。

 だから不安にさせないよう、いつも自分も軽く振る舞うようにしていた。


 ユリウスは別に、悪い男ではなかったのだ。

 確かに領主として出来がいいかと言われれば微妙だったのだが、末端の末端から上がってくるような要望まで自身でヒアリングし、取捨選択をして、いつも領地を発展させようと、力を尽くしていた。


 そんなユリウスを支えるのは、もちろんメリーアンだった。

 二人はいつも同じ方向を向いていた。

 苦しい時に支え合う、戦友のようなものだった。


 幼い頃に生まれた恋という感情は、やがて穏やかな愛に変わっていく。


 ユリウスはメリーアンが心から大切だった。

 だから、妊娠につながるような行為を避けていたのだ。

 安全に出産できる可能性が一番高いと言われる二十歳まではと。

 


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