ユリウスと向き合う時
「メリーアン、顔が真っ青だよ。大丈夫?」
大学にあるエドワードの研究室。
メリーアンはエドワードとドロシーに支えられて、なんとかこの部屋までやってきた。なんと最悪なことに、あのやりとりをドロシーにも見られていたらしい。
(こんなのってありえないわ。最悪も最悪よ……)
汗をぐっしょりかいたせいだろうか。
頭がクラクラする。
「これ、お水」
「ありがとう……」
ドロシーに水の入ったコップをもらい、一気に飲み干すと、少し体が楽になった。
「はあ……もう、なんて言ったらいいのか」
メリーアンは思わず頭を抱えてしまった。
「……あんなこと大声で言いふらされたら、私、もうここへは来れないわよ」
「えーっと。もしかしてメリーアンって、あの綺麗な女の人に、彼氏寝取られちゃったの?」
「ウグゥッ」
改めて言われると、傷を抉られる。
「あんな馬鹿でかい声で話してちゃあ、そりゃあな」
エドワードがストロベリーサンデーを食べながら、肩をすくめた。
ドロシーが買ってきたものを、もったいないからと食べているらしい。
「あー、なんかごめんね。でもさ、あの人たち、なんでここにわざわざ来たの? メリーアンに何か話がしたそうだったけど……」
「……知らないわ」
そういえばユリウスは、話したいことがあるとか、なんとか言っていたような気がするのだが。
それにしたって、ララを連れてくる意味が分からない。
(……そういえば、婚約解消の書類を提出していないとか、なんとか言ってたような?)
それと何か関係があるのだろうか。
「あの二人、どっか行っちゃったみたいだよ」
窓の外を覗いていたドロシーがそう言って振り返った。
メリーアンはその事実にホッとしてしまう。
「どうする? メリーアン。会いたくないなら会わないでもいいが、どうもきな臭いぞ」
「……会いたくない、けど……」
エドワードの言うとおりだ。
なんのために二人がここへやってきたのかはっきりさせておかなければ、後々面倒なことになりそうな気もする。
「……」
ふとメリーアンは、パブとルルルのことを思い出した。
(……パブとルルルに偉そうに話しあえ、なんて言っているけれど。相手と向き合うことは、勇気がいることだわ)
膝の上でぎゅ、と拳を握る。
(……私、ここで話し合わなきゃ。でも、勇気が……)
どうしてユリウスはララを選んだのか。
本当にララと結婚するつもりなのか。
聞きたいことは山ほどある。
そしてきっと、ユリウスと向き合うことが、この悲しみを乗り越える最後の山場なのだとメリーアンは悟った。
「メリーアン」
一人で考え込んでいると、不意に声をかけられた。
エドワードだった。
「無理すんなよ。別にあんたが行かなくったって、俺が聞きに行けばいい話だろ」
そう言われて、メリーアンははっと気づいた。
(私……もう、一人だけで悩んで、考え込む必要はないのかもしれない)
目の前には、心配そうな顔をするドロシーとエドワードがいる。
あの日あの時、トランクケースを持って身一つで飛び出したメリーアンとはもう違うのだ。
ユリウスがそうであるように、メリーアンもまた、ここへ来て変わった。
……クロムウェル領にいた時と同じように、ここでもまた、新しい仲間を作りつつあるのだ。
「……ありがとう」
二人での話し合いが厳しいのなら、どうすべきか?
とても簡単な話だ。
(……話し合おう、ユリウスと)
信頼できる第三者についていて貰えばいい。
メリーアンにはもう、その人がいるのだから。
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