アストリアの過ち
クロムウェル領に対して不安を抱くメリーアンだったが、ひとまずルルルとパブのことについて、大学の図書館でもう少し調べてみることにした。
「喧嘩って言っても、喧嘩らしい喧嘩はしてこなかったみたいだけど……」
どの本にも、パブとルルルの仲良しなエピソードが多かった。
あの穏やかなフェーブルでさえ、友人と喧嘩することがあるのだ。
そう考えると、あの二人の仲は相当良い。
「うーん……彼女らがアストリアで暮らしていたときになかったってことは、この地を離れてから何かがあったってこと?」
そうだとすれば、図書館で調べることはもうできない。
なぜなら妖精は、もう滅びた存在となってしまっているのだから。
アストリアが滅したその先にまだ物語があったなんて、誰も想像していなかっただろう。
(アストリアが滅した……そうだわ)
メリーアンはふと気づいた。
まだ彼らの〝最期〟を調べていないことに。
「……」
……二人で一緒に、死んだのだろうか。
メリーアンはそれを調べることに気が重くなってしまった。
(でもそこにヒントがあるのだとしたら、調べた方がいい)
知らなければいけない。
──人が、妖精たちに何をしたのか。
*
妖精たちは高潔で純粋な存在だ。
人は彼らに、人の命を奪えるような──要するに戦争に使用できるような──強い魔法を教えてくれと乞うた。
妖精たちはそれを受け入れなかった。
だから人間は数々の妖精を殺し、魔法を奪ったのである。
《中略》
妖精たちは純粋な存在ではあるが、反撃をしなかったわけではない。彼らの魔法によって、多くのアストリア人が命を落としたこともまた事実である。
しかし人は、彼らが反撃するたびに、妖精を捕まえては見せしめになるよう、残酷に殺した。
もともと純粋な心を持つ妖精は、人を殺すことも、仲間が殺されることも、耐えられなかったのだろう。殺された妖精が増えるたび、妖精たちは心を蝕まれ、その力を弱めていった。
あまり知られていないが、月光の妖精ルーナ=ルルエット=ルーも、見せしめに殺された妖精の一人だ。
ルーナ=ルルエット=ルーは心優しかった。戦争状態であっても、人の友人が何人かおり、友人をとても大切にしていた。しかし友人らはルーナ=ルルエット=ルーを裏切った。大切な話があると会う約束をして、人間の兵士たちに彼女の居場所を教えてしまったのだ。
ルーナ=ルルエット=ルーの親友パブは、戦争状態になってから、人間をひどく嫌っていた。人間を信じないよう彼女に忠告していたが、二人の意見は合わなかったようだ。
ルーナ=ルルエット=ルーの友人は、パブも一緒においでと誘ったが、パブは絶対にいかないと言い張って、ルーナ=ルルエット=ルーを一人で行かせた。結果、彼女は残酷な殺され方をし、巨木に磔にされてその遺体を人間たちの前に晒された。
ルーナ=ルルエット=ルーの遺体の前で呆然とするパブもまた、アストリア人によってなぶり殺しにされたという。
『妖精たちの最期 アレクシス・レイン著』
※P234 第16章より抜粋
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