事情
エドワードからの情報をまとめるとこうだ。
・すでに王家はメリーアンが妖精の展示室の管理人候補であることを知っている。エドワードが報告した。(これはエドワードの独断ではなく、管理人が現れればすぐに国王に報告するのが義務のようだ)
・王家は今回のクラディス侯爵家の行いには関わっていない
・そもそもの話、メリーアンが管理人候補となった時点で、メリーアンの身の安全を優先している。
・メリーアンと聖女のゴタゴタに関しては、当人らで解決するように手出しはしない。
「ねえ、それって本当なの?」
「何が」
「その……王家が、ララとユリウスの結婚を推奨していないって言うのは」
王族本人に聞くのは気まずすぎたが、メリーアンは思い切って聞いてみた。
そもそもの話、クロムウェルを飛び出してきたのは、王家による暗殺も視野に入れていたからだ。
「あんたが妖精の展示室の管理人になってからはな」
「……」
メリーアンの頬に冷や汗が伝った。
(それじゃあ……それまでは可能性があったってことじゃないの……)
なんにせよ、あの屋敷を飛び出してきて正解だったのだ。
「あんたがごねれば、何かしらアクションはあったかもしれねぇ」
「……」
「陛下とて、一貴族が大きすぎる力を持つことを、危険視しないわけじゃないだろうよ」
「……エドワード。さっきからあなたの立ち位置がよくわからないわ」
エドワードだって王家側の人間だ。
こんな事情をベラベラとメリーアンに話していいわけではないだろうに。
「……俺は王家とはある程度距離を置いている。ブレイズ公爵エドワード。それが今の俺だ。信じる信じないはあんた次第だが、俺が嘘をついたって、何も得はねぇだろうよ」
どこか冷めたような物言いに、エドワードの複雑な育ちを感じる。
(でも、それはまあ、確かに……)
今日のことではっきりした。
エドワードがメリーアンの味方であるということは。
メリーアンを従わせようとするクラディス公爵令嬢アリスと、はっきりと対立したのだから。
(もし王家がララの肩を持つなら、エドワードの立場は危ういものになるものね)
それにしたって、王家の立ち位置は曖昧だ。
「メリーアン。あんたが思っているよりも、王家は残酷だぞ」
「……え?」
「気をつけろ。あいつらは損得勘定でしか動かねぇ」
「それは……私が管理人ではなくなったら、また命を狙われる可能性があるってこと?」
「……離縁していれば大丈夫だ」
エドワードの言葉に思わずメリーアンは身震いする。
「ありえねぇだろうがその逆も然りだな。聖女が力を失えば、王家は一気に聖女から手を引くぞ」
(ありえないわよ)
メリーアンはため息をつく。
「でも、私とユリウスの婚約解消の書類は、まだ受理されていないって」
「ああ。どうもクロムウェル伯でとまっているみたいだな」
(一体どうして?)
ユリウスが躊躇する意味がわからない。
早く婚約解消してもらわないと、困るのはメリーアンの方だ。
焦燥感に駆られるメリーアンを宥めるように、エドワードはグラスにワインをついだ。
「ほら、飲めよ。少しは落ち着く」
「……どうもありがとう」
メリーアンはぼうっと考え込みながら、ワインを煽る。
「書類が受理されていないのも問題だが。アリスたちのあの態度も随分なもんだぜ」
そうだった、とメリーアンは頭を抱えた。
「ねえ、一体彼女たちはどうしてそこまで私に固執していたのかしら?」
ワインを煽りながら、メリーアンは首をかしげる。
「私を従わせることで、王家に恩を売りたいのかなと考えていたんだけど……違う?」
恩を売る、とまでは行かなくとも、信頼を多少回復できることにはなるのではないか。メリーアンはそう考えた。
それにしたってアリスのあの異常なララへの崇拝ぶりは気になるが。
「あながち間違いじゃねぇ。ただあいつらが恩を売りたいのは、正確にはベルツ公爵家に対してだ。今回のことが成功したら、ベルツ公爵が陛下にクラディス侯爵家を再び宮廷に戻すよう進言する、とかなんとか、約束していたようだ」
なるほど。確かにベルツ公爵は自分の手を汚さすに、クロムウェル領の恩恵を受けることができるし、クラディス侯爵は再び宮廷に舞い戻れる機会を得ることができるかもしれない。
「ただ、今日でその問題は解決したわね。エドワードのすっごい演技のおかげで」
「演技? 俺はいつだってあんなだぜ」
戯けて見せるエドワードに、メリーアンは少し笑う。
「……だが、少し心配なことがある」
「心配なこと?」
「ああ」
エドワードは頷いた。
「〝報われない忠誠とヘリオトロープのレジェ〟って知ってるか?」
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