第十三話 ゴブリンキングの誤算
防壁の上から突き落とされた俺だが、本当に熟練度が3に上がったので、文句は言わないでおくことにした。しかし、マーチ姉さんが怒り心頭といった感じで伯父に対して怒っている。うん、ご愁傷さまです、伯父上。
それからマーチ姉さんは極大魔法の詠唱を始める。何故か怒りのオーラが出ている姉さんの魔力操作は、何時もの時よりも乱雑な気がしたが、指摘するのは止めておいた。俺にもトバッチリがきては堪らないからな。
詠唱を始めて三十秒程でゴブリンの団体の先頭が見え始めた。最後尾は見えないが、先頭集団が凡そ二百体ぐらい居るのは確認出来る。俺達との距離が二百メートルぐらいになった時に、先ずサイとメイとキャルが魔法を放った。
「上級火風混合魔法【火炎竜巻】」
「生活魔法(上)【真空パック】」
「家政婦スキル【サイクロン】」
サイの火を伴った竜巻が先頭集団に当たり、五十体程のゴブリンが巻き込まれて吹き飛んでいく。吹き飛んだ先に居たゴブリンも吹っ飛んでいるので、百体は葬った筈だ。そして、竜巻が消えた後に飛んだメイの生活魔法により、先頭集団の後尾にいた新たな集団がバタバタと倒れる。こっちも少なくとも百体は倒している。メイの生活魔法も(上)になって色々とヤバい魔法が増えている。更にキャルのサイクロンを食らったゴブリン達は天空高く吸い上げられて、落ちていく。その数は五十体ほどだ。二千五百体のうち、凡そ二百五十体を倒したが、その後から続々とゴブリンどもはやって来ている。そこに、姉さんが魔法を放った。
「極大魔法【極炎陣
それは天と地から湧き上がった火だった。続々と表れるゴブリン達の真ん中辺りから起こり、前と後ろに勢いを広げていく。逃げ惑うゴブリン達を易易と飲み込み、火に包んでいく。
その火が消えた時には生きて動いているゴブリンは凡そ百体程で、その生きているゴブリン達も逃げ出そうとしていた。そこに姉さんの呟きが俺達に聞こえた。
「やり過ぎちゃった……」
うん、俺もそう思うよ姉さん。俺の出番が無いし…… 防壁の上から見ていた伯父も顔面が蒼白だ。そして、門を開けて飛び出そうとしていた衛兵さんに騎士さん達も呆然としている。そこに最後尾に居たと思われるゴブリンジェネラルが担ぐ輿に乗ったゴブリンキングと、逃げ惑うゴブリンを再度、統率したゴブリンロードが姿を表した。その総数は凡そ百五十体。
それを確認した伯父は蒼白い顔のまま激を飛ばす。
「よ、よし! マーチと子供たちは下がれ! 衛兵隊に騎士団よ、残りを殲滅せよ!!」
うん、動揺が俺にも分かるよ伯父上。けれども逃げずに立ち向かうのは流石だと内心で褒めてあげます。衛兵隊と騎士団の皆が殲滅の為に飛び出した後、町に戻った俺達は大きく開いた門から戦況を確認していた。
通常のゴブリンだけなら安心して見ていられるけど、ジェネラルやロード、それにキングも居るからね。危なくなったら直ぐに参戦するつもりで居たんだ。けれどもどうも出番は無さそうだ。ジェネラルやロードだけじゃなく、キングもかなり浮足立ってるから、皆によってたかってボコボコにされている。コレで、最初はかなりヤバイ状況だと思われてたゴブリン襲撃は、呆気なく終わってしまったんだ。因みに別働隊の百体も冒険者と衛兵隊によってちゃんと駆逐されたそうだ。
その後、衛兵隊と騎士団からはマーチ姉さんに二つ名が送られた。【極炎の殲滅女神】と……
伯父上は何時もは大きい背中をかなり小さくして辺境伯様への報告に行き、その日は家に帰らなかったので、翌日に更に怒りを大きくしたマーチ姉さんにコッテリと絞られたそうだとは、近所に住む噂好きのおば様達の話だ。
(ゴブリンキングの思考)
『グギャギャ、やっと人共に復讐する事ができる。長かった…… 集落を冒険者とか言う人共に襲われて、皆が殺された。俺は何とか森に逃げ延びて隠れて過ごしてきた。圧倒的な怒りを持った俺は、ゴブリンから、ゴブリンソルジャーに進化を遂げていた。そこで、別の最大規模の集落に向かい自身を売り込んでその集落に入り込んだ。その集落にはゴブリンキングがいたからだ。俺は自分の野望を叶える為に、心に燻る怒りを糧に戦いに明け暮れた。そうして、ゴブリンナイトに進化して、ジェネラルの配下になった俺はとある人共の村を襲った際に、上司であるジェネラルを倒した。そこで、俺はジェネラルに進化を遂げた。更に、ロードを倒しロードに進化を遂げ、最終的にキングをも倒して集落を全て掌握する事ができた。だが、まだ足りない。配下となるロードもジェネラルも数が少ないので、俺は他の集落を見つけては傘下に入るように命令して、その数を増やして行ったのだ。そして、時は熟した。二千五百にも及ぶ我が軍団の前に、恐れ慄く人共の顔が見える。今こそ、復讐の時だ。今度は貴様らが恐れ慄くのだ!』
……と思っていた時期が俺にもありました。しかし、無情にも我が軍団は呆気なく崩壊してしまいました。先ずはじめに小さな人共が魔法を放ってきました。それによって一割の我が軍団が削られましたが、その時にはまだまだ余裕が俺にはありました。しかし、その後です。見た事もない恐ろしい炎が我が軍団を襲いました。すると、何という事でしょう! 我が軍団には凡そ百名しか残っていないではないですか!? しかもその残った百名は慌てふためいて逃げ出そうとしております。俺は慌ててジェネラルやロードに指示をだして、残った者を編成しなおし、向かってくる人共に対処しました。しかし、向かってきた人共は余りにも強く、現在の俺自身は配下のジェネラルとロードと共にタコ殴りにあっています……
どこで間違えたのでしょうか? 間違いなくそこらの人共にやられるような強さではない筈のジェネラルやロード、そして俺自身が今現在、僅か五人の人共の攻撃になす術無く叩かれております。俺は人の言語を理解しておりませんが、ロードの一人が叩かれながら通訳してくれました。
『この、バカゴブリン共が! 俺達の町には殲滅女神様がいらっしゃるんだ! お前らごときが一万体こようが町には脅威でも何でもないんだよっ!』
『おい、コイツラの素材は結構な値段で帝都で買ってくれるから、そろそろトドメをさすぞ!』
その通訳はその言葉の後に首を刎ねられておりました。そして、どうやら次は俺の番のようです。そのときになって俺は思いました。ああ、この町じゃないもう一つの大きな町を攻めておけば良かったと…… 今さら遅いですが、そこまで考えた時に俺の思考は中断されました……
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