第九話 衛兵隊の訓練場

 翌朝、俺とキャル、メイは姉さんと一緒に町を歩いていた。昨日、サイと約束した通りに衛兵隊の訓練場に向かっているのだ。

 途中にあるサイの家の前にはサイとサイのお兄さんが待ってくれていた。


「おはようございます。俺はサイの兄でダイルといいます。昨日はサイがお世話になりました。そして、今日からよろしくお願いします。皆もサイと仲良くしてくれて有難う。これからもよろしく頼むよ」


 ダイルさんははじめに姉さんに言ってから、俺達にも声をかけてくれた。サイによく似たイケメンさんだった。いや、サイが似てるのか。


「「「おはようございます。こちらこそ、よろしくお願いします」」」


 俺、キャル、メイは声を揃えてそう挨拶をした。


「おはようございます。今日は無理を言ってスミマセン。この子達も衛兵隊の皆さんと一緒に訓練が出来たら今後の開花も早まるだろうと思いまして。私は養護院で下女をしております、マーチと言います。ギフト自体は大した事がないのですが、いささか魔法を使えますので、初級から中級ぐらいまでならサイくんにお教え出来ると思います」


 マーチ姉さんがそう挨拶を返すとダイルさんが再度、よろしくお願いしますと頭を下げた。それから一緒に訓練場に向かう。訓練場前には馬車が二台停まっていた。


 それを横目に訓練場に入ると貴族様に連れられてカールとセレナがいた。二人は俺達を見て駆け寄ってくる。


「遅かったじゃないか、ガイ」

「ガイ様、おはようございます」


 うん、セレナ嬢ちゃんは偉いな。ちゃんと挨拶が出来てる。


「うん、おはよう。セレナ。早かったんだね」


「はい、お父様がメイルサ家に負ける訳にはいかないって言って……」


 うん、お疲れ様。俺は少し気の毒に思いながらセレナ嬢ちゃんの肩をポンポンと叩いておいた。すると、無視していたカールが言う。


「ガイ、婚礼前の女性に無闇に触るのはご法度だぞ!」


 ムッツリくんは何をいってるんだが。こんなのは軽いスキンシップだろうに。そこで、俺はお前も頑張れよという気持ちでカール坊っちゃんの頭をポンポンしてあげた。


「ム、子供扱いするなー!」


 アレ、怒っちゃったよ。お子ちゃまだな、カール。

 それから俺は衛兵隊長さんと思われる人と話している貴族様とマーチ姉さんの元に行った。そこで俺に気がついた貴族様二人。


「おお、ガイくん。おはよう」

「ガイくん、おはよう」


「おはようございます。グレイさん、マルスさん」


「マーチさん、この子が?」


「はい、ザーバンさん。こちらがガイです。ガイ、コチラは衛兵隊の隊長さんでザーバンさんよ。皆の為に午前中は訓練場を使用しても良いって許可してくれたの」


 俺はそれを聞いてザーバンさんにお礼を言って頭を下げた。


「おはようございます、ザーバンさん。僕達のワガママをきいてくれて有難うございます」


「イヤイヤ、メイルサ伯爵家とドワーズ伯爵家の両家に頼まれたのもあるけど、カルメン女史に逆らえないというのが本当のところなんだよ、ハハハ……」


 あ、ザーバンさんが遠い目をしている。一体、俺達の養護院のマザーは何者なんだろうか? 

 俺がそんな事を考えていたらザーバンさんの横にいた今の俺より少し年上だと思われる少年が紹介された。


「ガイくん、コチラは辺境伯様の三男で、レイナウド様だ。年はガイくん達よりも二つ上になるかな? 今日からレイナウド様も一緒に訓練をする事になったんだ、よろしく頼むよ」


「はい、分かりました。レイナウド様、よろしくお願いします」


「レイでいいよ。ガイ、よろしく」


 爽やかイケメン少年の笑顔が眩しいぜっ、チクショー。

 女性隊員達の熱い視線の大半を持っていってるな。


 しかしガイは勘違いしていた。現在、訓練場にいるのは三番隊の女性隊員が八人、一番隊の女性隊員が五人の十三人がいるが、彼女たちはカール、ガイ、サイ、レイナウドの四人に平等に熱い視線を向けていたのだ。ムッツリのカールは勿論気がついている。


『ああー、サイくんの儚い感じもいいけど、ガイくんの精悍な感じもまた素敵』

『カール様のオボッチャマ感もいいわぁ〜』

『レイナウド様の知的な雰囲気がたまらないわ!』

『四人とも素敵すぎて…… 鼻血出そう』


 彼女たちの脳内ではイケナイ妄想が膨らんでいるが、ココでは描写を控えておく。


「さてと、キャルちゃんとメイちゃんとセレナちゃん、それにサイくんはコッチで魔力制御の訓練をしましょう」


 マーチ姉さんが訓練場の端に三人を呼んだ。それからダイルさんが俺とカール、レイに声をかけてきた。


「ガイくんと、カール様、レイナウド様は走り込みをしましょう。先ずは女性隊員について走って下さい」


 言われて俺達は女性隊員の方に走って向かった。女性隊員十三人の間に挟まれて俺達は走り出した。


 地獄だった。訓練場の外周を走るのだが、五周ほどで終わりかと思ったら、女性隊員は三十周、男性隊員は五十周が基本らしい。

 サイは最終的に男性隊員と走っていたそうなので、五十周を走っていたのか……


 俺も養護院の中を十五周していたけど、訓練場の一周は養護院の一周よりも広かった。そして、女性隊員の皆さんはニコニコ笑顔で励ましてくれるが、止まる事を許してはくれなかった。


「はい、カール様、歩くより遅くてもいいですから、足を動かしましょうねぇ」


「レイナウド様、もう少しですよ〜。あとほんの二十周です。頑張って下さい」


「ガイくん、凄いわ〜。まだ余力が有りそうね〜。それじゃ少しペースアップしてみましょうか〜」


 三十周走り終えた俺達三人は走り終えてぶっ倒れる事も許されなかった。


「はい、はい、倒れてしまうと翌日からしんどくなりますから、一周だけ自分のペースでいいから歩きましょうね〜」


 ゼーハー、ゼーハー言いながら歩く俺達三人を女性隊員の皆さんはギラギラした目で見ていたそうだ。後でキャルとメイがそう教えてくれた。 


 そうして、俺達の体力作りが始まったのだった。

 

 

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