第十話 ギフトの開花

 訓練場での走り込みを始めて一週間が過ぎた。その日、レイが叫んだ。


「や、やった! 開花したっ!!」


 えっ? レイは俺より二つ年上だよね。まだ開花してなかったのか。


「キャー、おめでとうございます! レイナウド様!」


 女性隊員の黄色い声がレイを祝福している。


「あ、有難う、皆のお陰だよ。もう諦めていたけど、ココに来て良かった……」


 そう言って涙を流すレイ。貰い泣きしてる女性隊員もいた。俺はコソっとカールに聞いてみた。


「なあ、カール。レイ様って二年も開花しなかったのか?」


「グスッ、そうだぞ、ガイ。レイ様は凄く努力されてたけど、どうしても開花しなくてな。ココで駄目なら辺境伯様ももう諦めろって言ってたぐらいなんだ。グスッ」


 カールも泣いてるよ。


「そうなんだな。良かったなー、開花して」


「カール、ガイ、有難う。特にカール、誘ってくれて本当に感謝しているよ」


「とんでもないです、レイ様。でも本当に良かったです」


「で、もし良かったらレイ様のギフトを教えてくれますか?」


 俺は気になってレイにそう聞いてみた。


「あ、ああそうだね。カールとセレナ以外は言ってなかったから、知らないよね。僕のギフトは看破なんだ。取り敢えず今は一つ目の弱点看破が出来るようになったみたいだ」


 開花したと聞いて近くに来ていたマーチ姉さんがレイに聞く。


「それならばレイナウド様、魔力制御の訓練に入られますか?」


 姉さんにそう聞かれたレイは少しだけ考え、こう答えた。


「いや、僕はまだ体力作りに励む事にするよ。せめて男性隊員について走れるまでは体力作りをしようと思う。それが、遠回りのようでも近道だと思うんだ」


 レイの答えを聞いた姉さんが微笑んで言った。


「正解です、レイナウド様。恐らく、このまま走り込みを続けられると二つ目、三つ目も早く開花する筈です。魔力制御はそれからでも遅くありません」


 姉さんにそう言われてレイはよし、今からもっと頑張って走ろうと駆け出した。うん、俺も頑張って走ろう。


 走り込みを始めて二週間、遂に女性隊員との走り込み卒業をザーバンさんに言い渡された。俺達三人は喜んだが、ザーバンさんは何故か女性隊員に詰め寄られている。うん、頑張って下さい、ザーバンさん。


 次の日、男性隊員と共に走るつもりでやって来た俺達三人を待っていたのは女性隊員に後ろに追いやられた男性隊員だった。サイの兄であるダイルさんが俺を手招きして呼んでいる。


「おはようございます、ダイルさん。どうしたんですか?」


「ガイくん、おはよう。実はね…… 隊長が圧力に屈してしまって。今日からも女性隊員と一緒に、五十周、走ってもらえるかな。昨日、あのあと女性隊員達が私達でも五十周ぐらい走れるわよって、実際に走ってみせてね…… むしろ、三十周走ったあとに五十周を走ってみせたもんだから、隊長も何も言えなくてね…… そういう事だから、ゴメン!」


 俺は恐らく遠い目をしていたのだろうと思う。ダイルさんは必死に俺に謝ってくれるが、俺としては隊長のザーバンさんに謝ってもらいたい。


 そんなやり取りをしていたら、女性隊員から声がかけられた。


「ガイくん、ダイル、さあ、走るわよ。ダイルも私達と一緒にね!」


「えっ? 俺もですか!?」


「そりゃそうでしょう。今日から本当は男性隊員と走る筈だったんだから、ダイルが居たらそういう事になるでしょ!」


 あ、俺には分かった。ダイルさんも何気に人気があるんだな。俺はニッコリ笑顔で女性隊員の味方をする事にした。


「そうですね、僕達もダイルさんが一緒に走ってくれたら嬉しいです」


 俺の言葉に少しひきつった顔をしているが、ダイルさんも逃げられないと悟ったのだろう。分かりましたと言ってついてきてくれた。


 他の男性隊員からのダイルさんを見る目が恐いが…… うん、そこはもう俺達には関係ないからね。俺は一所懸命に体力作りをするだけだ。 


 そうして、ダイルさんも交えて五十周マラソンを続けること一週間、遂に俺も開花したんだ。


 その時は突然やって来た。走り終えて一周歩いていた俺の体が周りから見ると輝いたらしい。俺は分からなかったけど。けれどもその時、俺の脳内では言葉が響いていたんだ。


【ガイは虫能力インセクトアビリティの1を開花しました。能力[蟻]、概要を表示します】


能力1[蟻] 熟練度0

蟻牙小刀 熟練すれば石でも切る事が出来る小刀

蟻頭鎧  熟練すれば鉄の武器では傷つかない鎧

蟻重力  熟練すれば高い所から落ちても大丈夫


 うおー、何か凄いな。武器と鎧に重力はちょっと分からないけど。でも全部に熟練すればって表記があるな。俺が脳内に表れたモノを考えていたらマーチ姉さんが駆け寄ってきた。


「ガイ、大丈夫なの?」


「あ、姉さん。うん、大丈夫だよ。それよりも、やったよ! やっと開花したよ!」 


「ああ! そうなのね、おめでとう、ガイ!!」


 そのやり取りを聞いて皆が俺の周りに集まってきた。


「ガイくん、おめでとう!」

「コレでガイも強者に」

「やったな、ガイ。おめでとう」

「ガイ様、やりましたね」

「ガイくん、凄いね! 良かったね!」

「私ほどじゃないけど開花して良かったな」


 皆が口々にそう言って祝福してくれた。そして、俺のギフトをお披露目する事になった。


「それじゃ、やって見るよ。蟻牙小刀、蟻頭鎧」


 俺の言葉と同時に俺の右手に蟻の牙の形をした小刀が現れて、俺の全身を鎧が包んだ。


「うおー、格好いいー」


 カールが叫んだ。俺は自分では見えないから分からないが、そう言われると悪い気はしない。


「コ、コレは!?」


 マーチ姉さんが絶句しているけど、どうしたのかな? 


「ガイ、その小刀の使い方と鎧をつけた状態で動ける?」


 マーチ姉さんにそう言われ俺は少し集中してみたら、脳内に動きが浮かんだ。


「うん、姉さん。大丈夫みたい。動くのも鎧をつけてない状態と同じぐらいには動けるよ。この鎧は軽いし」


 俺の返事を聞いてから姉さんが、


「ガイ、そのままジッとしててちょうだい。サイくん、初級魔法のファイアをガイに向けて撃ってみて」


 何て言い出した。いや、姉さんちょっと待ってと俺が慌てているが、姉さんの命令は絶対だとばかりにサイが魔法を撃ってきた。


 俺の鎧の胸部分に命中したけど、全然熱くない。その結果を見て姉さんが言った。


「やっぱり。ガイ、その鎧は初級魔法なら完全に防ぐわ。中級魔法だと完全に防ぐのは難しいけど、それでも致命傷にはならないと思う」


 おおっ! ソレって凄い事なんじゃね。


 でもコレで能力の1なんだよな。次の開花が楽しみになるなぁ。


「ガイ、明日からの走り込みはその装備をつけた状態で三十周にして、残りの時間は装備を解除して、衛兵さんに剣を教えて貰いなさい」


「うん、分かったよ。姉さん」


 そうして、やっとギフトが開花した俺は、新たな訓練をする事になった。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る