第七話 開花しない俺
俺は養護院の外壁の内側を走っていた。伯父であるゲーレンスとも話をして、暫くの間はとにかくひたすら走って体力をつけるのがいいという事になったのだ。そして何故か俺の横をキャルちゃんとメイちゃんも走っている。二人ともニコニコ笑顔で走っているが、俺としては必死に走っているので二人の体力には驚いている。最初は二周だったけど、体力に余裕があったから今では十周走っている。
そうして走ること二週間、キャルちゃんはギフトが開花した。
「ヤッター! あのね、家政のギフトが開花したの。
「キャルちゃん、早い!」とメイちゃん。
「キャルちゃんが一番だったかー!」と俺。
それから三日後にはメイちゃんも開花した。
「開花した。
「メイちゃん、もうちょっと喜ぼうよ」とキャルちゃん。
「おお、よーし次は僕だ!!」と俺。
意気込んだけど、俺のギフトは開花しない。走るのも十五周に増えたんだけどな。そしてとうとう儀式から一ヶ月が過ぎた。その日は朝から大量の手土産を持って、カール坊っちゃんとセレナ嬢ちゃんが養護院に来たんだ。
「ガイ、キャル、メイ、やったよ。ギフトが開花したんだ。剣閃を使えるようになったよ」
「キャルちゃん、メイちゃん、ガイ様、私もギフトが開花しました。
セレナ嬢ちゃん、俺に様はつけないでもらえますか? ほら、セレナ嬢ちゃんの侍女さんが睨んできてるので……
「二人とも開花したんだねー、私とメイちゃんも開花したんだよー。メイちゃんなんかもう三つも使えるようになってるんだよ!」
「おお! それは凄いな!!」
うん、カール坊っちゃんは素直な良い子だな。
「それで、ガイ様は?」
セレナ嬢ちゃんがそう聞いてきたので、俺は少し落ち込みながら言った。
「いや、まだ……」
俺の落ち込みを見て慌てるセレナ嬢ちゃん。
「あ、あの、ゴメンナサイ……」
「いや、そんなに謝らないで。多分、誰も知らないギフトだから、開花するのも人より遅いだけだろうって教えて貰ってるから」
俺がそう言うと、カール坊っちゃんが聞いてきた。
「ん? ギフトに詳しい人が居るのか? 良かったら紹介してくれないか? 私も自分のギフトについて詳しく知りたいんだ」
カール坊っちゃんがそう言うから、俺は
「あ、あ、あの、僕はサイって言います。あの神選の儀式の時に……」
たまたま門の近くに居た
俺はサイくんを見て言った。
「あっ! サイくんだよね。銀色に輝いた。どうしたの? 遊びに来てくれたの?」
俺がどう言おうか迷ってる様子のサイにそう聞くと、サイはホッとした顔をして返事をしてくれた。
「覚えててくれたんだ、ガイくんだよね。うん、そうなんだ。同い年の友達が出来たらいいなと思って、友達になってくれるかな?」
それをニコニコ見ていた姉さんが俺達二人に声をかけてきた。
「アラ、二人はもう友達でしょう。さあ、サイくん遠慮せずに入ってちょうだい。それと、後ろにいらっしゃるお姉様方も入って貰った方がいいのかしら?」
姉さんがそう言うと驚いた顔をして後ろを振り返るサイ。そこには衛兵隊三番隊の女性隊員五名が木陰からサイを覗いていた。
「えっ! 皆さん、どうして!?」
サイが驚いてそう聞くと、少し恥ずかしそうにしながら一人のお姉さんが代表して言った。
「ご、ごめんね。サイくん。私達、サイくんが心配だったから……」
「いえ、有難うございます。でも、こうしてちゃんとお話出来たから大丈夫です」
サイも少し顔を赤くしながらも、お姉さん達が見守ってくれていたのが嬉しかったのだろう。ちゃんとお礼を言ってる。それを聞いたお姉さん達は、
「ハア〜、尊い…」
「サイくんは、神」
「ハァ、ハァ、サイくん…」
とそれぞれが思い思いの反応をしていた。だが、俺は後でサイに忠告してやろうと思った。ハァハァ言ってたお姉さんは要注意だぞと。
それから、お姉さん達は帰っていき、俺とサイ、それに姉さんは養護院の中に入った。部屋まで行く間にサイが教えてくれたんだけど、儀式の時に一緒に受けた町人の子供の一人は、俺のギフトの事を馬鹿にしてるそうだ。
「ガイくんが司祭様に何も聞かずに降りていった後に、町人の子らが司祭様にガイくんのギフトについて聞いてたんだ。それが虫能力だって聞いて、みんなが虫って何だとか言って笑ってたよ。中でもこの町一番の商会でもある、グレード商会の子が一番バカにしてたみたい。だから、町に出た時は注意してね」
ふーん、そうなんだな。まあ、虫ってついてたら子供はバカにするか。俺には通じないけどね。何せ大人ですから。
「分かった、有難うサイ。気をつけるよ。あ、友達だから呼び捨てでも良いよね。それで、サイも開花したの? 僕はまだなんだけど」
「あ、うん、呼び捨てでいいよ。僕は時間がかかったけど、やっと開花したんだ。衛兵隊の皆と一緒に朝だけ訓練させて貰ったからだと思う」
その言葉に
「えっ! サイくんは衛兵隊の朝練を受けてるの!?」
「あ、ハ、ハイ。兄が衛兵隊にいて、隊長さんと副隊長さんが特別に許可を出してくれたんです」
それを聞いた姉さんはガイもその方がいいかもと呟いたのを俺はシッカリと聞いた。けれどもその後に姉さんはサイにこう言った。
「サイくんのギフトは魔導師よね。魔法書は手に入りそう?」
聞かれたサイは顔を曇らせた。
「いえ、ソレが魔法書は値段が高くて。手に入ればもっと早く色々な魔法を使えるようになるけど、今は一つ一つ覚えていくしか手がなくて……」
それを聞いた俺は姉さんに言ってみた。
「姉さん、キャルちゃんやメイちゃんと一緒にサイにも教えてやってくれる?」
「そうね、先ずはサイくんのお兄さんとお話して、許可を貰ったらって事にしましょうか。マザーにも言わないといけないし」
俺と姉さんの会話を聞いてサイが不思議そうに聞いてきた。
「えっと、あの、マーチさんは魔法が?」
「うん、私もギフトが魔法系なの。だから少しは教える事が出来ると思うよ」
いや、ココだけの話だがサイよ。世界最強と言われた魔女様だから、教えて貰えたらサイも直ぐに強くなれるぞ。まあ、内緒だから言えないけど。
そうして話してると部屋に着いたので、俺達は中に入って、改めて自己紹介をしあったんだ。そして、カール坊っちゃんは
「カールはやっぱりムッツリ」
メイがボソッと俺にだけ聞こえるように呟いていたが。そこにマザーも顔を出した。知らなかったけど、マザーは貴族様だったらしい。カールとセレナが物凄く丁寧語で話している。セレナは伯母様と言ってたので、血縁になるのかな?
それから、何故か明日の朝にサイが訓練している場所に集合になった。音頭をとったのは姉さんだ。マザーの方から話を通しておくって事になって、カールやセレナも集合する事になった。それからマザーがこうも言った。
「あなた達二人の親には私から言っておくわ。だから、あなた達は呼び捨てで呼び合っても大丈夫よ。不敬には当たらないとシッカリと言い聞かせておくから。友達なら、それが当たり前のコトだからね」
そうして俺達は好きなように呼び合うコトが出来るようになった。マザー、有難う。
それから皆がギフトを見せあったりして楽しい時間を過ごし、夕方前に解散となった。
「それじゃ、また明日」
何故かフェーネ様が言ったような展開には成りそうにないな。まあ、俺としてもその方がいいから、このまま皆と仲良くやって行きたいと思う。
しかし、俺のギフトはいつ開花するんだろう?
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