第六話 哀しみのサイくん

 ガイ、キャル、メイの三人が並んで教会から養護院に帰る時に、かなり後ろの方から三人をジーッと見つめる子供がいた。そう、銀色に輝いたサイくんである。サイくんは思っていた……

 どうして誰も僕に注目しなかったんだろう?


 曲がりなりにも銀色に輝いた僕はもっと注目されても良かった筈では? そう思っていたサイくんだが、何故か誰にも相手にされず貴族からもお声がけも無かった。ソレはこの三人の所為ではないかと思ったのだ。しかも一番最後のガイという少年はギフトが何かも司祭様に聞かずにいたのだ。輝きは虹色だったけど、きっと大した事がないギフトの筈だ。だってあの後僕は司祭様にガイのギフトを聞いたんだから。

 虫能力という名前を。そんなギフトは聞いた事がないって司祭様も言ってた。それなのに貴族も、他の町人もガイという少年にしか注目しなかったんだ。僕なんて魔導師っていう凄いギフトだったのに。魔法を扱う事についてのギフトは下から、魔術士、魔術師、魔道士、魔道師、魔導士、魔導師、大魔導、賢者だ。僕は上から三番目のギフトを授かった。神様、何で誰も注目してくれないの?


 サイくんの心の中はそんな負の感情でいっぱいだった。そして、気がついたら三人の後をつけていたのだ。勿論、何をするでもなくだ。ギフトを授かったからと言って直ぐにそのギフトを使用出来る訳ではないから。先ずはギフトを使用出来るようになる為に心と体を鍛えないといけないのだ。

 サイくんは三人が養護院に入るのを見届けると、そのまま自分の家に帰る事にした。


 家に帰っても誰も居ない。父母は既になく、町の衛兵である兄は夕方にならなければ帰らない。サイくんは兄が作っておいてくれた冷めた昼ごはんを一人寂しくモサモサと食べた。そして、そのまま粗末なベッドに横になりふて寝をした。


 夕方、兄が帰ってきた音で目が覚めたサイくん。兄のダイルはサイくんが目覚めたのに気がついて、サイくんに言った。


「サイ、凄いじゃないか。銀色に輝いたんだってな! 神様はお前のことをシッカリと見てくれているんだ。それに頂いたギフトも魔導師だって! そんな凄いギフトを授かったんだ、これから頑張ってギフトを使えるようになろうな! 先ずは体力をつけるために運動しようか。明日の朝から兄ちゃんと一緒に衛兵隊の訓練場で走り込みをしよう!」


 兄は満面の笑みを浮かべてサイくんをそう褒めてくれた。そして、粗末ながらも普段は決して並ばないご馳走がテーブルにのっていた。思わず、


「うわー、兄ちゃん、どうしたの? こんなご馳走?」


 そう兄に聞いたら、兄はニコニコしながら教えてくれた。


「衛兵隊の隊長ザーバンさんと副隊長のダールさん、それに兄ちゃんの所属する三番隊の先輩が、サイの事を聞いておめでとうって買ってくれたんだ。明日、サイも一緒に行って皆にお礼を言うんだぞ」


 それを聞いたサイくんは嬉しくて、そして自分が情けなくて、涙を流していた。

 何で僕はあんな事を思ったんだろう? 注目されたいなんて…… こうして僕のギフトや銀色に輝いた事を知った兄ちゃんや、衛兵隊の皆がおめでとうって言ってくれるなら、注目なんてされなくても良かったんだ。


 サイくんの突然の涙を見たダイルは慌ててサイくんの元に駆け寄った。


「どうした? サイ、何処か痛いのか?」


 心配してそう聞いてくれる兄に、サイくんは正直に儀式の後に自分が如何に暗い気持ちで負の感情を持ってしまったのか伝えた。それを聞いたダイルはサイくんにこう言った。


「そうか、そんな風に思ってしまったんだな。でも、今はソレが間違っていたってサイは気がついたんたろ? なら、大丈夫だ。気がついたなら遅いなんて事はないんだぞ。それに、その養護院の子達にも何もしてないんだろう? うん、それならまた日をおいてその養護院の子達に会いに行ってごらん。その子達もきっとサイの事を覚えてるし、友達になってくれるかも知れないぞ」


 そう言ってダイルはサイくんを慰めてくれた。サイくんは直ぐに行くのは自分の気持ちに整理が出来てないからと兄に言い、兄と一緒に走り込みをしてギフトの能力が一つ開花したら会いに行ってみると決意をダイルに伝えた。

 ダイルも目標があるのはいい事だと賛成してくれた。


 その翌日、兄と一緒に早起きして衛兵隊の訓練場に出かけて、隊長のザーバンさん、副隊長のダールさんに昨日のお礼を言い、朝の少ない時間だけ兄と一緒に走り込みをさせて下さいと頼んでみた。


「おう、サイ。偉いな。走るのは体力をつけるのに最適な運動だ。もちろん、許可してやる。頑張って体力をつけろよ」


 ザーバンもダールも快く許可を出してくれたので、そのまま訓練場に行き兄の先輩にもお礼を伝えて、


「今日から走り込みを一緒にさせてもらいます。よろしくお願いします」


 と丁寧に頭を下げた。三番隊には女性が八人いるのだが、サイくんの可愛らしさにメロメロになってしまったようだ。


 こうして、サイくんは衛兵隊、三番隊の皆と一緒に走り込みを一所懸命にするのだった。もう、サイくんは哀しくなんてなかった。目標もできたし、三番隊の皆(特に女性隊員)が、サイくんサイくんと構ってくれたから。


 走り込みを始めて一月後、サイくんは開花した。


神の祝福ギフト

 魔導師 初級火魔法 ファイア


 そして、サイくんは今日いよいよ養護院を訪ねる。サイくんはドキドキしていて気がついてないが、その後ろには非番である三番隊の女性隊員五名が、サイくんよりドキドキしながら様子を見守っていたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る