第五話 聞いてたのと違うけど?
二家の貴族は俺達三人の前に立って、カールの父親とセレナの父親と思われる二人がしゃがみ、俺達に目線を合わせた。そして、
「ガイくんと言ったね。良かったら我が家に来て、ウチの息子の友達として仕えてくれないか? 勿論、立場があるから他の人が居る場合には息子に対して丁寧な口調を心がけて貰うが、我が家内で家族しか居ない時にはくだけた口調で喋って貰っても構わないから」
そうメイルサ家の当主がいうと、
「待て待て、グレイよ。ガイくんはウチのセレナの婚約者になって貰うんだ。どうかな、ガイくん。親バカかも知れないが、ウチのセレナは将来必ず美人になる。そんなウチの娘と結婚出来るんだ。婚約者になってくれないかな?」
そうドワーズ家の当主が言う。
「バカな、マルスよ。それならば、先ずはウチの養子として迎えようじゃないか。いきなり庶民の子を貴族の婚約者には出来ないだろう!」
いやあの、もう帰ってもいいですか? 俺としてはフェーネ様から聞いていた展開と違うから、非常に困ってます。キャルちゃんもメイちゃんも怯えてるし。俺がそう思っていたら今度は貴族のお子様達が喋りだした。
「ガイという名前なんだな。私はカールという。父上の言うことはともかくとして、私とは友として付き合ってくれないか? 勿論、ウチに来いなんて言わない。幸いにして、ココは辺境だ。帝都とは違い庶民とも協力しあうのが当たり前だから、私が屋敷の外で
「あの、私はセレナと言います。キャルさんとメイさん、同い年なんですよね。私とお友達になって下さいませんか? 私には同い年の同性のお友達が居なくて…… 勿論、カールと同じで私が町で見聞を広める時に一緒にまわって下さったらいいので」
うーん、何かフェーネ様から聞いてた話と違うんだけど…… セレナ嬢ちゃんに話しかけられたキャルちゃんとメイちゃんはおずおずと俺の後ろから出てきて、小声で返事をしている。
「ガイくんが一緒でいいなら、いいよ」
「ガイも一緒だよ」
二人の返事を聞いたセレナ嬢ちゃんは、パアッと顔を輝かせて、
「勿論ですわ! ガイ様も是非、ご一緒に」
その返事を聞いた二人が俺の後ろに引っ込んで、二人でコソコソ話している。
「セレナ様は要注意ね」
「あの女は危険人物」
いや、俺に聞こえてるからね、二人とも。しかし、ココでカール坊ちゃんが負けじと話し出す。
「そ、そのときは私も一緒で構わないだろうか?」
まあ、俺としてはここら辺が妥協点かなと思うので、二人に向けて返事をした。
「ご当主様方の言うことには頷く事は出来ませんが、カール様やセレナ様の言う事なら、多分マザーも許して下さると思います。僕達の養護院にご連絡くだされば、その日はお二人にお付き合いしますので、それでよろしいですか?」
という俺の返事を聞いたご当主二人が、
「ガイくんは何処かの貴族の子なのかな?」
「ガイくん、何故そんなにシッカリとした受け答えを出来るんだ?」
と質問してきた。
ヤベー、ちょっとやらかした。何せ、前世の記憶があるから、お貴族様には丁寧に喋らなきゃって思ってたから…… うん、ココはマザーに助けてもらおう。
「僕達の養護院では、マザーからシッカリとした教育を受けられます。いつか、貴族様とも関わる事があるかも知れないと、口調についても教育を受けているんです」
「しかし、五歳にして……」
二人はまだ疑問に思ったようだけど、俺はこれ以上は喋らない。ボロが出るからね。
それから、カール坊ちゃんとセレナ嬢ちゃん二人と約束して、俺達は教会を出た。教会から徒歩二分にある養護院の前にはマーチ姉さんが立って待ってくれていた。
「三人とも、お帰り。どうだった?」
「マーチ姉さん、私はねー、家政だったよ!」
「メイは生活魔法だったの」
「「マーチ姉さん、教えてくれる?」」
「アラ、二人ともいいギフトを授かったのね。勿論、私の分かる事は教えてあげるよ。ガイはどうだったの?」
「うん、姉さん。僕は
「そうなのね。私も知らないギフトだわ。でも、困った事があったらガイも相談してね」
「うん、姉さん。分かったよ。それでね、こんな事があってね……」
俺は
「アラアラ、それは凄い事ね。でも、出かける時は私もついて行く事にしようかしら。それでもいいのかな?」
「ヤッター、マーチ姉さんも一緒に来てくれるなら安心だわ」
「あのカールはムッツリだから危険」
二人とも五歳なのに、同い年の男の子に対して酷いこと言うなぁ。俺は内心で苦笑しながらも賛成しておいた。そして、
「マーチ姉さん。僕は体を鍛えようと思うんだ。その相談をしたいから、今からお部屋に行ってもいい?」
そう言うと、
「それじゃ、先ずはガイの相談にのるから、二人はその後でいい?」
と聞いて、二人が了承してくれたので、俺と一緒に部屋に行く事になった。
部屋に入るなり
「それで、ガイは何で体を鍛えようと思ったの?」
しかし俺はそれには答えずに
「マチルダさん、今日まで守ってくれて有難う。でも僕はまだまだ弱いから、もう少しだけ守ってくれる? 僕が自分で自分の大切な人やモノを守れるようになるまで……」
俺のその言葉を聞いたマチルダさんは目を見開いて言った。
「ガ、ガイ、何で知ってるの? アナタはまだ生後半年だったのよ……」
そこで俺は正直にマチルダさんに話す事にした。自分が前世の記憶がある事。そして、自分の前世の神様と、この世界の大地母神フェーネ様によりガイとして転生した事。生後半年の時点で既に自我があった事。けれども、帝宮での儀式から今日の儀式まで、フェーネ様によりその自我に蓋をされていた事を話した。そして、
「フェーネ様からは何も気にせずに好きなように生きなさいって言われてるんだ。だから、僕はフェーネ様から貰ったギフトで自分だけじゃなくて、大切な人やモノを守れるようになりたいんだ。その為にはギフトを使えるようにならなくちゃいけないんだけど、フェーネ様は先ずは体を鍛えなさいって言ってたから……」
そこまで言うとマチルダさんは俺に抱きついてきた。
「ああ、ガイ。ゴメンね、アナタのお母さんを守れなくて。でも、私もゲーレンスも守ろうとしたのよ。ソレだけは信じてちょうだい」
俺は勿論マチルダさんや、伯父を信じている。強く頷いた俺にホッとした顔をしたマチルダさんは、それから俺の相談について真剣に考えてくれた。
「基本的な運動は私でも教えられるわ。先ずは体力をつけましょうね。それから、ゲーレンスが来たら、そのときに最適な鍛錬を教えてもらいましょう。それでどうかしら?」
「うん、マーチ姉さん。そうするよ」
こうして、俺は明日の朝から養護院の外壁の内側を毎日二周走る事になった。
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