第四話 ガイ、五歳

 ワーズマン帝国の帝都から凡そ二百キロ離れた場所の辺境都市フレンズの養護院に、栗毛色の髪を持つ一人の少年が居た。名前をガイという少年はその日五歳になる年を迎え、神選の儀式を受けるために教会へと来ていた。隣には養護院に居る同い年の少女、キャルとメイも居た。教会には辺境都市にいる全ての五歳の子供達が集まっていて、皆が今か今かと待っていた。


「ガイくん、楽しみだねー」

「うん、そうだね。キャルちゃん」

「私達、どんなギフトが出るのかな?」

「ワクワクするね、メイちゃん」


 そんな会話をしながら待つ子供達に遂に司祭からの声がかかった。


「それでは今から神選の儀式を行います。名前を呼ばれた人はココに来てこの水晶に触れて下さい」


 司祭はそう言うと先ずは貴族の子の名前を呼んだ。


「カール・メイルサくん、ココに」


 呼ばれた子が前に出て水晶に触れると、水晶が銀色に輝いた。


「おお、神はカールくんを暖かく見守ってくれてますよ。カールくんのギフトは剣鬼ですね。これからも精進して剣神を目指して頑張って下さい」


 その子供はヤッタと言いながら親の元に戻っていく。


「次にセレナ・ドワーズさん。コチラに」


 今度は女の子だ。その子も触れると銀色に輝いた。


「おお、セレナさんも神が見守ってくれてますね。お二人続けて銀色とは、この町では初めてですね。セレナさんのギフトは治癒師ですね。お隣の王国に居られます聖女様も始まりは治癒師だったんですよ。精進して下さい」


 女の子はおしとやかに下がるが、途中で小さく握りこぶしを作ったのをガイは見ていた。


 そして、貴族はその二人だけだったらしく、そこから町人の子が呼ばれだした。町人の子達は一人を除いて輝きは銅ばかりだったが、今呼ばれた男の子は銀色に輝いた。


「おお、サイくんは神に暖かく見守られてますね。サイくんのギフトは魔導師ですね。精進していれば賢者様になる可能性もあります。頑張って下さい」


 因みに初めに名を呼ばれた貴族の子らもまだ帰宅はしていない。何故ならば優秀な子がいたら自分の家にスカウトする予定があるからだ。帝都では庶民を雇うなどは考えられないが、ココは辺境都市なので優秀であれば出自を問わないという風潮である。


 そして最後に養護院の子らが呼ばれた。


「それでは、キャルさん。コチラに」


「ハ、ハイ」


 呼ばれたキャルは緊張しながらも水晶に近づいて触れた。その瞬間に金色に輝いた。


「おおっ! 金色に。キャルさんは神に愛されておりますね。辺境都市では初の金色ですよ。キャルさんのギフトは家政ですね。創世の女神ワリメナ様のお創りになられた他の星では、極めればスーパー家政婦にまで進化するという書物が教会にあります。今までに家政以上になられた方はおりませんが、キャルさんは頑張って目指してみてください」


 庶民のそれも養護院で暮らす子が金色に輝いた事で貴族である二家と、スカウトに来ていた他の貴族からはザワザワと聞こえている。が、キャルは嬉しそうに二人の仲間の元に戻り、


「やった、家政だって。コレでマザーのお手伝いがシッカリと出来る」


 と話していた。


「それではメイさん、コチラに」


 呼ばれたメイも緊張しながらも水晶まで行き、手を触れた。銀色に輝いたのを見て司祭が言う。


「何と、銀色! この町で一人の金色、四人の銀色が出たのは本当に素晴らしい事です。神に暖かく見守られた子らがこんなに多いとは。銅色の子らもそうですよ。神は見守って下さってます。コレからみんな精進すれば、神はいつでもそのお力をお貸しくださりますからね。さて、メイさんのギフトは生活魔法ですね。コレは生活に役立つ素晴らしい魔法です。先程のキャルさんと協力しあえば更に上を目指す事も可能になります。メイさんもシッカリと勉強して頑張って下さい」


 司祭にそう言われて嬉しそうにハイと返事をして二人の元に戻ったメイは、


「生活魔法だったらマーチ姉さんに聞けば教えて貰えるかな?」


 と二人に聞いている。


「うん、そうだねメイちゃん。マーチ姉さんなら教えてくれるよ。キャルちゃんと一緒に聞いて見たらいいと思うよ」


 ガイがそう答えたら、うん、そうするねと、キャルとメイが笑顔で返事をした。


「さて、それでは最後の子ですね。ガイくん、コチラに」


 司祭に呼ばれたガイは内心ではドキドキしていた。何せ二人の仲間が金色と銀色に輝いたのだ。もしかしたら自分だけが白や黒だったらどうしようかとか思いながら、躊躇いがちに水晶に手を触れた。そして、意識が違う場所に飛んでいた。


『ヤッホー、五年ぶりだね。ガイくん』


 ソコに居たのは大地母神フェーネで、ガイは生後半年に起こった事を全て思い出す事が出来た。


「ああっ! あの時の女神様!」


『ウフフ、良かった。ちゃんと記憶が戻ったようね。ガイくんは地球での記憶もあるから、赤ちゃん時代を過ごすのは可哀想だと思って、一時的に記憶に蓋をしておいたの。どうせ、今日こうして会えると分かっていたからね』


 そ、それは非常に有り難い。あの時は赤ちゃん時代をどう乗り越えるか真剣に考えていたから。ソコで俺は記憶に蓋をされていた時の事を少しだけ教えて貰った。マーチ姉さんが俺の乳母だったマチルダさんが変装している姿だと言う事は大切な事だから、脳内メモにシッカリと記した。


『でね、ガイくん。キャルちゃんとメイちゃんなんだけど、メイルサ家とドワーズ家からスカウトされるけど、二人は緊張して返事が出来ないからガイくんがキッパリと断ってあげてね。二人はコレからのガイくんに必要な存在だから』


「えっ、でも? 貴族に仕えた方が二人は幸せになるんじゃ……」


『ううん、それは間違い。例えばキャルちゃんがメイルサ家に行くと、十二歳でマセガキのカールくんに手篭めにされちゃうの。そして、産まれた子とともにイジメられて死んでしまうの。メイちゃんも似たような事になっちゃうから、二人の幸せはガイくんにかかっているからね。それから、この後から体を鍛えるようにしてね。はじめは簡単な運動からでいいから。そして、私のギフトを使い熟せるようになってね』


「はい、分かりました」


 俺がそう答えた途端に意識が教会に戻ったようだ。俺の目の前では司祭が口をパクパクさせている。


「に、に、に、虹色だとーっ!!」


 あ、大声で叫んでる。まあ、いいか。俺は放っておいて二人の元に急いだ。


「ガイくん、凄いねー。キラキラだったよ」


 とキャルちゃんが言えば、


「ガイはすっごく神様に愛されてるんだね」


 とメイちゃんも言ってくれた。


 俺はニコニコしながら二人にうん、そうみたいだねと言ってから、


「さあ早く帰ってマザーやマーチ姉さんに報告しよう」


 と二人を促した。けれども、出口に向かう俺達三人に二家の貴族が立ち塞がる。さあ、ここは俺の出番だ。

 

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