第三話 大地母神フェーネ
『えっと、それでは今からその説明をしてくださると言うことでいいんですか?』
俺が躊躇いがちにそう聞くと、大地母神フェーネ様はコクコクと頷いて肯定した。
『そうなの。もう今から説明しちゃうね。あのね、ココは創世神ワリメナ様がお創りになった貴方から見ると異世界になる星、マークスラースなの。で、貴方が産まれたこの国は帝国ワーズマンで、貴方は第三王子として産まれたんだけど、残念ながらこの後に貴方は国から出される事になるの。でも、安心してね。ちゃんと貴方を守ってくれる人がいるから。それでね、助かった後は養護院での生活になるけど、それも安心してね。ちゃんとした院長がいて、子供達みんながスクスクと育つ環境にあるから。それと、私から貴方にあるギフトを贈るんだけど、その使い方は
そこまで一気に言われて俺は必死になって脳内にメモをしながら最大の疑問点を聞いてみた。
『で、何か成し遂げなくてはならないのでしょうか? 例えば、魔王を倒すとか?』
俺がそう聞くと大地母神フェーネ様は笑いながら否定した。
『ううん、そんなのは無いから安心してね。私は貴方の人柄が良かったから、この世界に転生してもらったのよ。だから、貴方は自分の好きなように生きてくれたらいいわ。それにアマテラスちゃんとも約束して、使命なんて背負わせないって言ってるし』
うん、さっきから日本の太陽神様の名前を【ちゃん】づけで呼ばれて俺としては複雑な気分だけど、それだけ親しい間柄なんだろうと納得する事にした。
『分かりました。それじゃ、俺はこの世界で俺らしく精一杯に生きてみます』
『うんうん、そうしてね。何よりも新しい人生を楽しんでくれたら嬉しいの。私からは貴方にギフト以外にもう一つ贈り物をしておくね。だから、この世界を楽しんでちょうだい』
『ハイ。ありがとうございます』
そう返事をしたと思ったら俺の意識は先程の部屋に戻っていた。そして、
「おっ、おおーっ!! にっ、虹だぁーっ!」
「何とっ! 帝国史始まって以来の虹だっ!」
「書記官、ちゃんと記録しているかっ!」
何故かみんながワタワタしている中、俺の脳内にはこんな言葉が響いていた。
【ガイは
えっと、コレって凄いよな。まあ、最初のギフトについては分からないけど、食物鑑定は本当にありがたいです。有難う、大地母神フェーネ様。
「む、しかしこのギフトは?」
「フム、聞いた事のないギフトですな」
「虫能力とは一体……」
「ま、まあ、このまま陛下にご報告するしかあるまい。ソレに虹だったのだ。さぞかし素晴らしい能力だと考えられる」
どうやら俺の能力は
「マチルダさん、陛下にご報告してのち、何らかのお話があると思われます。暫くは部屋で待機をお願い致します」
「はい、畏まりました。ガイ様と一緒にお待ちしておきます」
そうして俺はマチルダさんに抱っこされて、先程の部屋に戻った。部屋に戻るとマチルダさんが俺に話しかけてきた。
「ガイ、凄かったわね! 虹なんて出たのは初めての筈だわ! 貴方は神様に愛されているのよ」
そう言ってニコニコしながら俺に頬ずりしてくれた。俺も嬉しい〜。こんなキレイなお姉さんが俺に頬ずりしてくれるなんて。向こうでは一度も無かったからなぁ。そう思っていたら俺の意識は何故か暗転した。
「アラ? 寝ちゃったのね。疲れたわよね、ガイ。大丈夫よ、ゆっくりと寝なさい。私が貴方を守るからね」
マチルダはそう言ってガイをベッドに静かにおろして布団をかけてやる。そして、部屋のノックを受けて返事をした。そこには暗い顔をした旧知のゲーレンスが立っていた……
そして、三人は馬車に乗り込み魔障の森を目指した。ソコには先回りした帝王の諜報員が居たのだが、三人の馬車が魔障の森に入っていくのを見届け、森の入り口で待機していた。
森に入ったゲーレンスはマチルダに聞く。
「どうだ? 魔道士は居るか?」
「ゲーレンス、大丈夫なようよ。コレなら転移出来るわ。辺境都市フレンズでいいわね?」
「ああ、フレンズの養護院にガイを預けようと思っている。マザーにだけは真実を話すつもりだ。マチルダはどうする?」
「私はガイを近くで見守るつもりよ。そうだ、偽装の為にガイだけでなく、私のこの服にも血のりをつけてゲーレンスに渡すわ。それで、私も一緒に始末した事にしておいてちょうだい。それと、年に一度は貴方も帰省するんだから、様子を見に来てちょうだいよ」
マチルダの言葉にゲーレンスは頷いて返事をする。
「勿論だ。ガイは俺の妹の子なんだからな。名前はこのままで大丈夫だろうか?」
「大丈夫よ。ガイという名は辺境都市フレンズならありふれているわ。寧ろこの子の髪の色を変えないとダメね。黒髪は帝国では珍しいから、目立ってしまうわ。それは私が魔法で染めるようにするわ」
「そうか、悪いが頼む。それでは、マチルダ。飛んでくれるか」
「ええ、行くわよ。転移」
マチルダがそう言うと三人の姿が魔障の森から消えた。そして、とある建物の中に現れた。そして、建物の中から一人の女性が出てきた。
「アラアラ、懐かしい魔力を感じたと思ったらマチルダかい。アラ、騎士ゲーレンス様まで、失礼しました」
その女性は二人を見てそう言うと中に入るように促す。中に入ったゲーレンスは早口で事情を説明した。
「そう、分かったわ。この子はこのカルメンの名において必ず守るわ。だから安心してちょうだい。マチルダはそうね…… 変装してこの養護院に新規に雇った下女になってくれたらいいわ。さあ、ゲーレンス、この二つを持って急いで戻りなさい」
カルメンと名乗った女性に言われてマチルダによって転移で魔障の森に戻ったゲーレンスはホッとしながらも魔障の森を一人で出た。ソコに待ち構えていた諜報員が接触する。
「止まられよ。騎士ゲーレンス殿」
「何者だ? 私を帝国近衛騎士のゲーレンスと知っているようだが」
ゲーレンスの問いかけに諜報員は帝国の紋章を刻印された短剣を見せて、説明する。
「我らは陛下直轄の者だ。この度、陛下からのご命令で貴殿が本当に任務を遂行するのか確認に来たのだ」
ソレを聞いてゲーレンスは静かに馬車の中から二つの衣服を取り出した。一つは赤子の服で、もう一つはマチルダの着ていた服だ。どちらもベットリと血のりが付いている。
「このように二人とも我が剣で刺してきた。乳母の方は辛うじて意識があったが、時間の問題だろうと思う。魔障の森の獣がやって来る気配を感じて私はその場を離れたのでな」
諜報員はその二つを一人に渡して言った。
「鑑定しろ」
「間違いありません。第三王子を騙る赤子と乳母の魔力を確認しました。間違いなく、この量の出血ならば助からない筈です」
鑑定結果に満足した諜報員は、ゲーレンスにむけて言う。
「コレで我らの仕事は終わった。陛下には一足先に我らからご報告しておくが、ゲーレンス殿も戻り次第、陛下に報告をお願いする」
「心得た。帝国に幸あれ!」
「帝国に幸あれ!」
そうして、第三王子として産まれたガイは死産だったと発表されて、その存在は抹消された。
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