第二話 俺は日本人だよね?

 えー、こんにちは。キレイなお姉さん。アレッ? 声が出ないな? 俺は不思議に思いそのお姉さんを見つめた。


「アラ、ガイ? どうしたの?」


 そのお姉さんが俺に向かってそう言ってくる。


 ガイって? 俺の事か? いや、俺は登村青児とむらせいじという名前ですけど?


 俺は一所懸命にキレイなお姉さんにそう言おうとするが、あー、うー、しか喋れないようだ。どういう事? 頭の中で混乱が渦巻いている。


「そっか、オムツが気持ち悪いのかな?」


 キレイなお姉さんはそう言うと俺の下半身に手を伸ばし、ゴゾゴゾし始めた。


 イヤ、お姉さん、待って。ソコはダメだよ。俺は慌てるが体は俺の意思どおりには動いてくれない。そして、下半身がスースーする事からスッポンポンにされた事に気がつく。


 イヤー、もうお婿にいけないー。俺は余りの恥ずかしさにバタバタと手足を動かした。その拍子に俺の意思を飛び越えて、オシッコが出た……


 お、終わった…… 俺はとどまる事を知らないオシッコを出しきり、放心してしまった。

 だが、俺にオシッコをかけられたお姉さんは顔にかかったオシッコを拭きながら、ニッコリ笑って言った。


「アハハ、勢い良く出たねー。元気、元気。スッキリ出来て良かったねー」


 何でそんなに笑顔なんだ。仮にも成人した男にオシッコを引っ掛けられて怒る事もしないなんて。て、天使か!?


 お姉さんはその後、俺の下半身をキレイに拭いてくれて、ナイナイしてくれたようだ。ソコにノックの音が響いた。


「マチルダさん、殿下は起きておられますか?」


「はい、今なら起きておられます」


 電化? 電化が起きてるって何のことだ? 俺は不思議に思いながらも会話を注意して聞いていた。


「失礼します。それならちょうど良かった。殿下に宝玉に触れて頂く時がきましたので、宝玉の間までお連れしてもよろしいですか?」


「はい。宝玉の間には入りませんので、その前まで私がお連れしてもよろしいでしょうか?」


「おお、それは助かります。よろしくお願いします」


 その返事を聞いたキレイなお姉さん(マチルダさん)は俺をヒョイッと抱え上げた。


 な、ナニーッ! 俺確か身長百八十五センチ、体重七十五キロある筈だけど、このお姉さんは何者だ? が、しかし俺は再度驚いた。目の前に見える俺自身の手に。


 なんじゃあ、こりゃーっ!! 俺の鍛え上げたマッチョな腕がぷにぷにのぷくぷくになってる! しかもかなり小さいじゃないか!?

 赤子か? 赤子なのか、俺? 


 そんな俺の驚愕をヨソにお姉さんと見知らぬお兄さんは並んで歩いている。


「第三王子殿下はどんな神の祝福ギフトを授かるんでしょうね」


「どのようなギフトでも私は構わないと思います。神の寵愛があるならば」


「そうですね。第一王子殿下は金、第二王子殿下は銀、第一王女殿下と第二王女殿下は共に金でございました。第三王子殿下も銀以上ならよろしいのですが……」


「大丈夫です。ミレイ様が命をかけてお産みになったんですもの。必ず神も見守って下さってます」


「そうですな。ソレは間違いないでしょう」


 廊下を進む二人の会話を聞いて俺は悟った。どうやら生まれ変わったんだと。えーっと、日本での俺の最後の記憶って思い出せるかなー……


 俺は必死に自分の記憶を探る。そして、思い出す。


 ああーっ! そうだよ。確か他所の国が攻めてきて、俺達は見せしめだってその国の兵士と素手で戦わされたんだよ。それで、俺が逆にボコッたら逆恨みしたその兵士に後ろから銃で撃たれて……

 そっか、あの時に俺は死んだんだな。他の皆は大丈夫だったのかな? でも、あの時の敵の将校さんは良い人だったから、そんなに酷い目にはあってないと思うんだけど。何せボコッた俺に表彰状を出すような将校さんだ。それに俺が撃たれた時も直ぐに駆けつけてくれたし。まあ、死んだけど……


 でも、転生したなら神様が出てきて色々と教えて欲しかったなぁ……。まあ、ハードルは高いけど生まれ変われたなら良いか。今度は慎重に生きていこう。


 俺がそこまで考えた時に部屋に着いたようだ。俺はマチルダさんの腕から、イケメンなお兄さんの腕にうつされた。そして、


「では、マチルダさん、ココでお待ち下さい。殿下に宝玉に触れてもらいますので」


「はい、お待ちしております」


 二人がそう言葉を交して、俺はお兄さんに抱かれたまま部屋に入った。中には三人の人がいた。


「おお、お連れしたか。早速だが、殿下の手をこの宝玉に」


「はい、ペランタ司祭」


 そう言ってお兄さんは俺を抱いたまま大きな水晶玉の前に行く。そして、俺に語りかけた。


「殿下、私の言葉はまだご理解出来ないでしょうが、お手を少しお借りいたします」


 そう言って俺の右手を優しく掴んでその水晶玉に当てた。その瞬間、俺の意識はこの部屋から飛んでいた。


『あー、良かったよー。ちゃんと呼べてー』


 ソコには先程のマチルダさんよりもキレイだが、何処か作り物めいた表情の女性が居て、俺を見てホッとしていた。


『あのー、ココは? さっきまで違う場所に居たと思うんですけど……』


 って、声がでる。やった、喋れるぞ。


『ああ、ゴメンナサイねー。今の貴方は魂魄こんぱくの状態だから、喋れるけど元に戻ったら喋れないからね。それと、本当にゴメンナサイ。手違いで説明もせずに転生させちゃって』


 そう言うと頭を下げる女性。と、言うことはこの女性は女神様?


『うん、そうなの。私はこの世界の女神で大地を守護する神なの。大地母神フェーネよ。よろしくね。日本のアマテラスちゃんから貴方を転生させないかって打診があって、それで貴方の行動をアマテラスちゃんと見守っていたんだけど、貴方なら大歓迎だと思って、転生してもらう事にしたんだけど、貴方がアチラで亡くなった時にアマテラスちゃんが、先走っちゃって…… 説明できなかったの。ゴメンね』


 うん、俺の脳内処理能力では消化しきれない程の情報だった。


 


 

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