辺境で守護神と呼ばれた人の成長記録

しょうわな人

第一話 誕生そして……

 その日、ワーズマン帝国の帝王の第三王子として一人の男の子が産まれた。母親は残念ながら男の子を産んだ後に力尽きて亡くなってしまった。


 男の子は最高の乳母により育てられ、そして生後半年になった時に、帝国の秘宝である神の祝福ギフトる事が出来る宝玉により、そのギフトが明らかになった。そのギフトは……



「ご報告申し上げます、陛下。第三王子殿下の神の祝福ギフトは、虫能力という帝国初のギフトです。宝玉の輝きは虹でございました。おめでとうございます」


 一人の文官が帝国を統治する帝王にそう告げたのだが、帝王は不機嫌な顔つきになり文官を怒鳴りつけた。


「おめでとうございますだとっ! 貴様は馬鹿かっ! ギフトが【虫】だとっ! そんな者は千年続く偉大なワーズマン帝国に相応しくないっ! ゲーレンス、ココに参れっ!」


 呼ばれて近衛騎士が一人、帝王の前に進み出た。


「ハッ! 陛下、ゲーレンスはココに」


「うむ、我が帝国の品位を著しく下げる者がおるようだ。その者を始末する事を其方そなたに命じる。速やかに実行するように。では行け!」


 命じられた近衛騎士は俯いたまま返事をする。


「畏まりました! 速やかに実行致します!」


 そうして、怒りの表情を帝王に見せぬまま、近衛騎士は帝王の前から退室した。


 生後半年の赤子の待つ部屋にやって来たゲーレンス。ノックをして乳母の返事を確認してから部屋に入る。


「マチルダ、陛下からのご命令だ。第三王子殿下は死産として発表される事になった。私に始末せよとの命が下った」


 暗く無表情にそう言うゲーレンスを見て乳母のマチルダは部屋に掛かっている魔法を確認する。そして、帝王の諜報員が盗聴している事を確認したのか、ゲーレンスの言葉に同じように無表情で返した。


「あーあ、折角私も出世できると思ったのに、どうやら貧乏くじを引いたようだね。ゲーレンス、アンタ一人で赤子を抱えて連れて行くのも大変だろう? どうせ、魔障の森まで連れて行くだけなんだから、アタシも付き合ってやるよ。魔障の森まで五日はかかるし、ちょっとした小旅行さね。あ、路銀はアンタ持ちだよ、勿論」


「いいだろう、世間の目を欺く為にも仮初の夫婦として小旅行に出かけよう。馬車の準備をしてくるから、少しここで待っておけ」


「分かったよ。こっちもこの坊主の準備をしておくさ」


 ゲーレンスが部屋を出た後にマチルダはもう一度確認をしたら、盗聴魔法は既に切られていた。どうやら何とか芝居は上手くいったようだ。そして、第三王子だった男の子に向かって優しく語りかける。


「ミレイの忘れ形見、ガイ。大丈夫だよ。このマチルダとゲーレンスにまかせておきなさい。アナタを始末させたりなんかしないからね。フフフ、そんなに見つめないで。全て私達に任せなさい」


 生後半年の赤子であるガイは、まるでマチルダが何を言っているのか分かっているような瞳で、マチルダを静かに見つめていた。


 そしてそれから一時間後、ゲーレンス、マチルダ、ガイの三人は粗末な馬車に乗って帝都の東門を出ていった。その後を凡そ一キロ離れた場所から、帝王の諜報員がつけている事も確認している。


「マチルダ、何か手はあるか?」


「ゲーレンス、今は無理だね。もっと帝都から離れないと。魔障の森近くならばどうとでもなるよ」


「そうか…… 済まない、巻き込んでしまって」


「今さらだよ、ゲーレンス。それにミレイは私なんかを相手にしてくれた最高の友だった。私はそのミレイの子であるガイを必ず守って見せる」


「有難う、マチルダ。妹もきっと天から見守ってくれている。ガイは守って見せる」


 二人は進む馬車で誓いを新たにしていた。そして、ゲーレンスはマチルダに聞いた。


「帝国、いや、世界最高峰の魔女に聞きたいんだが、ガイの神の祝福ギフトについて何か知らないか?」


 聞かれたマチルダは御者をしているゲーレンスには見えないが顔をしかめて答えた。


「ゲーレンス、残念ながら私にも分からない。虫能力なんてギフトは初めて聞いたよ」


「そうか…… マチルダでも知らないか。ならばこの子は苦労するな。けれども救いはある。宝玉の輝きは虹だったそうだから」


「ほう、それは。ガイは神に愛されてるんだね」


 二人は少し安心したような声を出している。ギフトを知る為の宝玉は、その輝きによって神の寵愛を図ることが出来ると伝えられていた。白、黒、銅、銀、金、虹で、白だと無関心だとされている。虹だと神は必ずいつも見守ってくれているとされている。ガイは虹に輝いたという。その事に二人は少なからず安心を覚えたようだ。


 馬車は夜も休まずに走り続けた。それは世界最高峰の魔女と言われるマチルダの魔法によって、馬も疲れる事なく走る事が出来たからだ。コレはあとをつけている諜報員達にとっては地獄のような事になった。

 自分達の馬は必ず疲れるのである。だから必ず休憩をしなければならない。しかし、長く休憩をとると見失ってしまい、任務失敗となる。少し休んでは馬を走らせ、また少し休むの繰り返しに馬たちもストレスを抱え込み、次第に言う事をきかなくなってきていたのだ。

 そこで、諜報員のリーダーは決断した。


「決めた、今日はココで野営を行う。確りと休息をとって、魔障の森まで近道を進む事にする」


 その決断が後々リーダーの首を絞める事になるが、それはまだまだ先の話だった。


 

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