第2話 変身して、殴り込み。

 そして、いよいよ当日になりました。前日に、私は、50体の人形を全部並べてどの人形を持っていくか遅くまで悩んで考えました。

多くても邪魔だし、少ないといざとなったときに、アレを持って来ればよかったと後悔したくないので、ずいぶん考えました。

 その結果、都合8体の人形を選びました。まずは、空を飛ぶときのツバメ、

暗闇でも目が見えるネコ。狭いところでも入れるネズミ。敵に襲われたときに

対抗するためのプロレスラーと空手家。機械に詳しい科学者。山登りが得意な

登山家とロッククライマー。私が厳選したのは、この人形でした。

「これくらいでいいかな」

 私は、その人形を箱に丁寧に詰めて、持ち運びやすい小さめのショルダーバッグに入れました。

そして、朝の9時に慎一くんのウチに行きました。

玄関でチャイムを鳴らすと、すぐに慎一くんが出てきました。

「おはよう」

「おはよう、美樹ちゃん」

 挨拶を済ませて中に入ります。早速、ウワンちゃんに持ってきた人形を見てもらいました。

「どうかしら?」

「美樹らしいな。いいんじゃないか。もっとも、レスラーとかは、使わないと思うけど」

「そうなの?」

 私は、ちょっとガッカリしました。

「ぼくは、いいと思うよ」

 慎一くんがそう言ってくれて、私は、元気を取り戻しました。

今日は、天気もよく、晴れているので、絶好の日取りでした。

「それじゃ、行こうか」

「待って、ウワンちゃんは、どうするの? ベビーカーってわけにはいかないでしょ」

「ぼくがおぶっていくんだよ」

 そう言って、慎一くんは、赤ちゃんのおんぶヒモを見せました。

「それ、あたしにやらせて」

「えっ!」

「いいから、あたしにやらせて。大丈夫よ。弟が小さいころにやってたことあるから」

 私は、そう言って、ウワンちゃんを背中に乗せると、昔を思い出しながら、

おんぶヒモで体を背中に固定します。

胸にヒモをクロスしてから、腰にヒモを回して、きちんと結べば出来上がり。

「ほら、どう。ウワンちゃん、苦しくない?」

「ぼくなら、大丈夫だ。慎一より、ゆったりしている。美樹は、なんでも上手だね」

 ウワンちゃんに褒められると、私もうれしくなる。でも、慎一くんは、なんか余りいい顔をしていない。

「どうしたの?」

「イヤ、なんでもない」

 私が聞いても、慎一くんは、何も言いません。その時、私は、慎一くんの目線に気がつきました。

おんぶヒモが胸の前でクロスしているので、私の胸が強調されて、慎一くんは、視線に困っているようでした。

たったそれだけのことなのに、恥ずかしがる慎一くんが、可愛く見えました。

「なに、笑ってるんだよ?」

 そんな慎一くんを見て、つい小さく笑ってしまいました。

「慎一くんて、可愛いね」

「なにが……」

「別に。ほら、早く行こうよ」

 私は、そう言って、玄関に向かいました。

慎一くんは、リュックを背負って慌ててついてきました。

「それで、場所は、どこなの?」

「田舎の山の中」

「どうやって行くの? 空を飛んで行くなら、あたしは、ツバメの人形を……」

「いや、現地までは、電車で行く」

「ハァ?」

 私は、てっきり、飛んでいくものとばかり思っていました。

「今日は、日曜の昼間だから、目立つことは、控えるんだ」

 背中に背負っているウワンちゃんが言いました。

なるほど、それもそうだ。今日は、日曜日で天気もいい。人出は多いはず。

万が一にも、見られたら大変なことになる。

 というわけで、私たちは、最寄の駅から電車に乗りました。

その後、いくつも乗り換えて、最終的には、ローカル線に乗って、二時間の電車の旅でした。

 これが、ピクニックとか旅行ならもっと楽しかったはずです。

でも、今日は、そんな楽しい雰囲気ではなく、いわゆる一つの殴り込みなのです。

しかも、破壊活動という、オマケつきです。物騒極まりありません。

 私は、ローカル線の車内で、ウワンちゃんと慎一くんから、打ち合わせをしました。

そうは言っても、結局、着いてみないとどうするか、わからないということでした。

 ドキドキもするし、ワクワクもするけど、緊張もしました。

そんな気持ちなのに、ウワンちゃんは、私の背中で気持ちよく寝ていました。

「慎一くん、場所って覚えてるの?」

「うん、はっきりは覚えてないけど、ウワンが記憶していたから大丈夫」

「中に人はいるのかな?」

「たぶん、いないと思う」

「それじゃ、空き巣に入るってこと?」

「一言で言えば、そうだけど、その言い方はちょっと……」

「ごめん」

 私は、すぐに謝りました。

「でも、似たようなもんだから」

 そう言って、慎一くんは、笑って慰めてくれました。

やっと着いて、降りたところは、無人駅でした。私も全然知らない駅です。

「ここなの?」

「そうだよ。合ってるよな、ウワン」

 慎一くんが、ウワンちゃんに話しかけます。でも、ウワンちゃんは、それには答えませんでした。

「なんだよ。まだ、寝てるのか」

 どうやら、ウワンちゃんは、熟睡中のようです。緊張感がありません。

それに引き換え、私は、緊張しているのか、顔が強張っていました。

「美樹ちゃん。リラックスして。なんかあっても、ぼくが守るから」

「あ、ありがとう」

 私は、そう言われて、少しは肩の力が抜けました。

そして、私たちは、駅から舗装されていない山道をしばらく歩きました。

30分ほど歩くと、通行禁止と書かれたロープが貼られているところに出ました。

「ここからは、空を飛んでいくよ」

 慎一くんが言いました。いよいよ、私も変身するときがきました。

緊張感が高まります。

「上を見て」

 言われて見上げると、目の前には、ものすごく高い山がそびえ立っていました。山というより、崖です。

「ここを登るの?」

「うん。ずっと上に、洞窟というか、抜け穴みたいなのがあるから、そこから入るんだよ」

 そう言われて見ても、下からでは、確認できません。

私は、肩にかけているバッグの中から、箱を取り出し、ツバメの人形を手にします。

「準備はいい?」

「いつでもいいわ」

「それじゃ、いくよ」

 そう言うと、慎一くんは、着ている上着を脱いで、私が作った背中が開いているシャツになりました。

そして、目を閉じて気持ちを集中します。すると、背中から、大きく白い翼が出てきました。

私は、慌てて背中のウワンちゃんを降ろして、ツバメのくちばしを指で触りました。数秒後、私は、ツバメになっていました。

足元に転がる私の人形を慎一くんが拾って、箱に入れます。

慎一くんは、私のバッグを肩にかけ、ウワンちゃんを片手で抱いて、背中の羽を何度か羽ばたくと、青空に向かって飛んでいきました。私も同じように、羽根をバタバタと羽ばたかせると、後を追うように空を飛びました。

 初めての変身で実践です。下を見ると、どんどん地面が小さくなりました。

私、自分の力で空を飛んでいるんだ。小さなツバメの目で見ると、信じられない気持ちになります。

 慎一くんは、鷲の羽なので、飛ぶ力がまるで違います。私は、懸命に翼を羽ばたかせて遅れないように飛びました。

「美樹、風に乗るんだ。ツバメなら、体が小さいから、風に乗れば、楽に飛べるぞ」

 その時、ウワンちゃんの声が頭に聞こえました。

私は、言われるとおり、風を気にして翼を動かします。すると、風に煽られて、あっという間に高く飛べました。

「慎一くん、あたし、飛べるよ」

「うん、すごいよ、美樹ちゃん」

 慎一くんは、ツバメの私に言いました。

どんどん上昇していくと、少しずつ崖の上が見えてきました。

「見える? アソコだよ」

 慎一くんが指を刺します。すると、洞穴のようなのが見えました。

見ると、確かに人が通れそうなくらいの穴が開いていました。

私たちは、その穴に入りました。慎一くんは、羽をたたみ、私は、一度、ホントの自分に戻りました。

中は、真っ暗で、何も見えません。慎一くんは、トンボの目があるので、暗闇でも見えるので、私は、バッグの中から手探りで箱の中から、ネコの人形を出して、変身しました。

「すごい。やっぱり、ネコになると、暗くても見えるわ」

 変なことに感心する私に、慎一くんは見下ろしながら言いました。

「気をつけてね」

 私は、ネコなので、四足でゆっくり進みます。足元は暗いけど、人間の時よりはっきり見えました。

足元に気をつけながら進みます。ときどき振り向くと、緑色に光る目の慎一くんがいるので、安心します。

「どれくらい行くの?」

「あの時は、ずいぶん走ったからね。もう少し先だと思う」

 ネコの姿なのに人の言葉を話す自分が、ちょっとおかしくなりました。

すると、遥か前方に小さな明かりが見えました。

「もしかして、アレ?」

「たぶん、そうだよ」

 私は、ネコなので、思わず走り出しました。

「美樹ちゃん、気をつけて」

 慎一くんが大きな声で言います。

ネコの体がこんなに軽いとは思いませんでした。しかも、足も速いので、ゆっくり歩いていられません。

私は、四足で走りました。だんだん光が大きくなってきます。

私は、そこの手前で止まって、慎一くんを待ちます。慎一くんは、今は、人の姿なので、後からきました。

「美樹ちゃん、早いよ」

「だって、ネコだもん」

 緊張感のかけらもない会話です。

そこからは、ゆっくり歩いて、近づきました。

すると、いきなり、視界が広がり、眩しいくらいの明るい場所に着きました。

「ここは、一体……」

 私の目に飛び込んできたのは、見たこともない機械が並んでいる、研究室のようなところでした。

慎一くんは、その中に入ると、私も続いて中に入ります。

そして、今度は、科学者の人形を取り出して変身しました。

「誰もいないみたいね」

 白衣姿の大人の女性に変身した私が言うと、慎一くんも周りを見渡しています。

「あの時は、急いでいたから、ゆっくり見てなかったけど、中はすごい施設だな」

「慎一、ぼくを降ろしてくれ。いろいろ探ってみる。慎一と美樹は、注意しながら他の部屋を見てくれ。ただし、機械には、手を触れるな。それと、資料のようなものがあれば、全部集めてくれ」

 ウワンちゃんが言うので、私たちは、二人で隣の部屋に入ってみました。

すると、そこの部屋には、小さなカプセルの中にいろんな動物が入っていました。

しかも、なにか液体の中に浮いている状態でした。思わず、目を背けてしまいます。

「ねぇ、これって、死んでるの?」

 私は、顔を背けて言いました。

「生きてるんだよ。正確には、生きているけど、意識はない。植物人間みたいなもんで、このカプセルの中で生かされているだけなんだ」

「そんな…… 残酷だわ」

 ウサギ、ネコ、犬、シカ、アヒル、タカ、ネズミなど、中型くらいの生き物がたくさん入っていました。

やっと、落ち着きを取り戻し、カプセルも見られるようになりました。

 他にも、わけのわからないコンピューターのようなものが、光って動いています。パソコンも何台も机の上に置いたままでした。

「とにかく、資料とか書類とか、探してみよう」

 私は、慎一くんに言われて、机の引き出しや棚を開けてみます。

すると、資料と思われるファイルがたくさん見つかりました。中を見ても、記号や数字が並んでいて、私には、まったくわかりません。でも、科学者に変身している私の脳には、それがなんなのか、少しずつ理解できるようになりました。

ホントの自分にはわからなくても、その人形になると

その特性を生かせるようです。

「これは、細胞を活性化する書式よ」

「えっ、美樹ちゃん、わかるの?」

「あたしはわからないわ。でも、変身したから、なんとなくわかるだけよ」

「すごいね。人形って、そんな力もあるんだ」

 慎一くんも感心してました。

私たちは、とりあえず、抱えられるだけのファイルや本を一箇所に集めました。

 もう一つの部屋にも行ってみます。そこは、手術台があって、すごく眩しいくらいでした。

「なんか、あのときのことを思い出すな」

 慎一くんは、少し顔を歪ませて、嫌なことを思い出していました。

「ここは、ホントに手術室ね。しかも、かなりすごい道具が揃ってるわね」

 ホントの自分にはわからなくても、変身した自分が、そう言っていました。

そこには、小さな机が一つあって、引き出しを開けると、その中にもいろいろ書類のようなものがありました。

それを手にしながら見ていると、一枚の写真を見つけました。

「これって、もしかして、慎一くんのお父さん?」

 その写真には、白衣を着た、年配の男性が写っていました。

「そんなの見たくないから、捨てて」

「でも……」

「いいんだ。ぼくをこんな体にした親なんて、親とは思ってないから」

 私は、返す言葉もありませんでした。仕方なく、たくさんある紙といっしょに重ねて、一箇所に集めます。

部屋は、全部で三部屋ありました。どれも、研究室のようなところで、機械が

たくさん動いています。

無人でも、機械だけは、自動で動いているようです。

「この機械は、全部自動制御付きなのね。これを作った人は、天才だわ」

 私は、ヘンなところに感心して言いました。

私たちは、手分けして、資料とかファイルとか、紙の類を集めました。

「ウワンちゃん、なんかわかった?」

「ここは、秘密研究所というべきところだね。これが、明るみに出たら、生物学の常識がひっくり返るね」

「それで、どうする?」

「もちろん、見つかる前に破壊する」

「ウワンちゃんに出来るの?」

「簡単に出来る。でも、ただ、破壊するだけでなく、この場所全体を破壊した方が、より安全だ。万一、誰かが発見して再利用するようなことになったら、大変だから、二度と使えなくするんだ」

 確かに、その方がいいと思う。

「でも、全体を破壊するって、どうするの?」

 私が聞くと、ウワンちゃんは、あっさり言いました。

「山崩れを起こして、入れなくするんだ」

 そこまで、すごいことをするのか…… ホントにウワンちゃんてすごい。

「まずは、この資料を燃やそうよ」

 慎一くんが言いました。

「いや、待て、その前に、ぼくに見せてくれ」

「こんなの見てどうすんだよ?」

「キミに万一のときのために、学習しておきたいんだ」

 そう言うと、ウワンちゃんは、床に降りると、赤ちゃんと同じように、

這い這いして、ファイルを捲り始めた。

「読めるの?」

「だいたいわかる」

 ウワンちゃんは、屈んで聞いた私にあっさり言いました。

「その間に、キミたちは、機械のスイッチを止めてくれ。パソコンは、中身を消去してからスイッチを切るんだ」

「そういわれても、ぼくは、やり方なんて知らないよ。パソコンは、苦手だもん」

 慎一くんがウワンちゃんに抗議しました。

「平気よ、あたしに任せて」

 今の私ならできます。この時のために、変身した、科学者なのだから。

「頼むぞ、美樹。慎一は、機械音痴だからな」

「悪かったな」

「今度、パソコンも教えてあげるね」

 私は、そう言って、慎一くんの肩をポンと叩きました。なんだか、少しだけ、偉くなった気分です。

早速、私は、機械の電源を落とし始めました。

 パッと見て、すぐにどうやればいいのか、わかるのです。

科学者の人形はすごい。

もしかしたら、外科医の人形に変身すれば、スーパードクターになれるかも……

そんなことを考えながら、次々と中身を削除して、初期化してから、電源を切りました。その間、慎一くんは、見ていることしか出来ません。

「美樹ちゃん、ぼくもやるから」

「ストップ」

 私は、機械に触ろうとした慎一くんに言いました。

「ヘンなとこに触って、起動したら大変だから、触っちゃダメよ」

「ハ、ハイ」

 慎一くんは、そう言って、手を止めました。

ここの研究者たちは、情報を共有していたらしく、パスワードが設定されていなかったので、その分だけ作業が速くて済みました。

「後は、これね」

 私は、動物たちが妙な水溶液の中に浮いているカプセルを見ながら言いました。

「これを止めたら、この中の動物たちは、どうなるの?」

「ホントに死ぬだろうね」

「何とかできない?」

「もう無理だ。そこから出しても、自分で呼吸は出来ない。心臓は、とっくに止まっているんだから」

 ウワンちゃんは、資料を見ながら振り向きもしないで言いました。

「可哀想だが、このまま静かに死なせてやるのが、一番だと思う」

「そう…… なのね……」

 私は、実験動物にされた目の前の生き物たちが哀れで、可哀想で、不憫でした。

「美樹、キミの優しい気持ちはわかる。でも、いくらぼくでも、出来ることと出来ないことがあるんだ。超能力者は、神ではない」

「うん」

 私は、頷くしかありませんでした。

「ごめんね」

 私は、そう言いながら、カプセルの電源を切りました。

すると、酸素なのか、泡が立っていたものが途切れて静かになると、中に浮いていた動物たちが沈んでいきました。

そして、あっという間に、骨になっていったのです。そして、その骨もすぐに溶けてなくなっていったのです。

私は、無言でそのカプセルを見詰めていました。


 どれくらいそこにいたのか、時間はわかりません。

「よし、もう、いいぞ」

 ウワンちゃんがそう言うと、慎一くんに言いました。

「中の機械も、すべて壊すんだ」

「壊すって、どうやって?」

「キミの両手を使えば、こんな機械、すぐに壊せるはずだ」

「そう言うことか」

 慎一くんは、やっと、自分に出来ることが見つかって、ホッとした顔をしていました。

「それじゃ、あたしにもやらせて」

「イヤイヤ、美樹ちゃんの力じゃ、無理だって」

 慎一くんが言いました。でも、私には、変身人形があるのです。

「何のために持ってきたのよ」

 そう言って、私は、箱の中から、レスラーと空手家の人形を取り出しました。

「それを使うの?」

「そうよ。だって、これなら、出来そうじゃない」

 慎一くんは、呆れているようでした。でも、ウワンちゃんは、褒めてくれました。

「美樹は、慎一より頼りになるな」

「そうでしょ。やっぱり、あたしを連れてきて、正解だったでしょ」

 私は、得意満面の笑みで、胸を張りました。

「さて、それじゃ、やってみるね」

「ちょっと、二人同時にやるの?」

「そうよ。一人ずつより、いいでしょ」

「そんなこと、できるの?」

「わかんないけど、試してみるのもいいでしょ」

 二体の人形を同時に変身するとどうなるか? 初めてなので、実は、ドキドキしてたけど、やってみる価値はある。

私は、レスラーと空手家の人形を片手で持って、人差し指と中指で、同時に二体の人形の鼻を触りました。

すると、二体の人形が大きくなって、科学者の私が小さくなって、人形になりました。

「やった。成功だわ」

 ごつい体の男性で、女言葉を話すのは、なんとなく気持ち悪い気がするけど、中身は、私だから仕方がない。

まずは、片手を勢いよく突き出してみました。すると、二体が同じ動きをしました。

「なるほど。意識は、美樹一人だから、複数の人形に同時に変身すると、同じ動きをするのか」

 ウワンちゃんが解説してくれました。

「まぁ、それでも、一人よりは、いいんじゃないかしら」

 私は、言い訳しました。そんなわけで、都合三人で、機械を壊して歩きました。

まさに、手当たり次第です。気合もろともパンチやチョップをすると、おもしろいように機械が壊れていきました。

ランプが割れ、機械から煙が上がります。踵落としをすると、機械が簡単に凹みました。

「美樹ちゃん、すごいよ」

「すごいでしょ」

 そう言って、頭をかいたけど、レスラーと空手家では、ちっとも可愛くない。しかも、同じ動きをするので、ちょっとヘンだ。

でも、慎一くんには、負けます。何しろ、右手は熊、左手はゴリラなのだから、勝てるわけがない。

 ちなみに、右手の熊は、ベアちゃん。左手のゴリラは、ゴリちゃんと名前です。

両手が毛むくじゃらで、太くて大きいけど、両手が違うので、とてもアンバランスに見える。

「ちょっと、ちょっと。いくらなんでも、そんなに叩いたら、怪我しちゃうよ。可哀想じゃない、今度は、あたしがやってみるね」

 余りにも乱暴に滅多やたらに叩き捲くっているので、心配になって、止めに入りました。

そして、今度は、私の番です。

「行くわよ、おりゃあぁぁ~」

 気合もろとも正拳突きとキックを繰り出します。すると、大きな音ともに、機械が崩れました。

「美樹ちゃん、痛くないの?」

「人形だから。でも、ちょっと痛いよ」

 私は、そう言って、今度は、肘撃ちと踵落しです。テーブルがパソコンごと、真っ二つになりました。

「慎一、美樹を怒らせると、怖いから、やめておけ」

「うん、そうする」

 後ろで二人がこそこそ話しているのを耳にして、振り向きました。

「なんか言った?」

「イヤ、別に何も」

 慎一くんの目が泳いでいるのがわかりました。私は、ニッコリ笑って、再度、パンチとキックを繰り出しました。

手当たり次第に壊し捲くったおかげで、部屋の中は、ボロボロの壊滅状態で、

再起不能でした。

「もう、いいだろう。慎一、美樹、脱出するぞ」

 ウワンちゃんが言いました。私は、なんとなく、もう少し暴れたりなかったけど、気分的にスカッとしました。

こんなに自分を捨てて、大暴れしたのは、初めてだったので、気持ちよかったのです。

 私は、一度、自分に戻ると、慎一くんについて出口に向かって走りました。

「また、あの穴から出るの?」

 走りながら聞くと、ウワンちゃんが言いました。

「イヤ、違う出口だ」

「出口があるの?」

「ある。外からは開ける方法はわからないが、中からなら開くはずだ」

 なるほど。そういうことか。走りながら、目に付いた機械類を手当たり次第に壊しながら走る慎一くんを感心しながら見ていました。

 そして、あるドアの前に着きました。見た感じ、重く、人の手では開けられない感じです。どこかに開けるスイッチでもあるのでしょうか?

 こんなときは、ウワンちゃんの出番です。慎一くんが抱いているウワンちゃんの小さな目が光りました。

「慎一、その壁だ」

 言われて慎一くんが壁を触りました。

「何かあるよ」

 なにか違和感を感じてそう言うと、その部分を強く押しました。

すると、重たそうなドアがゆっくり左右に開いたのです。

「すごい。ホントに開いた」

「感心している場合じゃない。急いで逃げるんだ」

 ウワンちゃんに言われて、私は、外に出ると走り出します。

でも、その道は、舗装されていない、山道なので、うまく走れません。

「待ってよぉ……」

 私は、先を行く慎一くんに声をかけました。

「美樹ちゃん、変身するんだ」

 慎一くんが言いました。私は、バッグの中の箱から、人形を探します。

「どうしようかな、どれにしようかな……」

「これだよ」

 慎一くんが手にしたのは、ネズミの人形でした。

「これ? でも、小さいよ」

「だからいいんだよ」

 私は、半信半疑でネズミに変身しました。

「見てよ、こんなに小さいのよ」

 慎一くんの足元にちょこんと座った私は、見上げて言いました。

「それでいいんだよ」

 そう言うと、慎一くんは、ネズミになった私を片手でそっと拾いました。

「大きいと、手に乗せられないだろ」

 そう言うことかと、初めてわかりました。

私は、慎一くんの優しい手に包まれて、なんだか安心しました。

そして、人形になったホントの私を拾い上げると、チーターに変身したのです。

ちなみに、チーターの名前は、豹くんです。捻りがないけど、語呂がいいので、それにしました。

「慎一、急げ」

 ウワンちゃんに言われた慎一くんは、足をチーターに変身すると、足元が悪い道でも、まったく問題なく走りました。

私は、慎一くんの指の隙間から覗きながら、その速さに感心しきりでした。

 少し走ると、最初に着た、通行禁止のテープが貼ってある場所に着きました。

「よし、この辺でいい」

 ウワンちゃんは、慎一くんの背中におぶされたまま言いました。

「ここで、崖崩れを起こして、壊滅させる。慎一は、ぼくの合図で、麓の安全な場所まで逃げろ」

「街は、大丈夫なの?」

「安心しろ。そこまで被害がないように加減する」

 そう言うと、また、ウワンちゃんの目が光りました。

慎一くんが上を見ます。すると、小石がコロコロ転がってきました。

それが、次第に大きな石が落ちてくると、崖にヒビが入ります。

次の瞬間、地震のように揺れると、崖が一気に割れて、岩が砕け落ちてきました。

「逃げろ、慎一」

 ウワンちゃんの合図で、慎一くんが、再び走り出しました。

ネズミの目には、景色は流れるようで、どこをどう走っているのか、まったく見えませんでした。

崖が崩れる大きな音と岩が砕ける音で、耳をつんざくようでした。

前が見えないほどの砂煙が上がりました。

 ようやく慎一くんが止まりました。そして、指を開いて掌に乗った私は、後ろ足で立ち上がってみるとアレほど高い山が、物の見事に崩れ去り、何もなかったように視界が広がっていました。

山の向こうに見える青空がすごくきれいでした。

「済んだな、ウワン」

「これで、大丈夫だろう」

 二人の話を聞いて、私は、すごくホッとしました。

そして、ゆっくり地面に降ろしてもらうと、ネズミからホントの自分に戻りました。

「お疲れ様、慎一くん、ウワンちゃん」

「とりあえず、これで大丈夫だろう。また、なにかあったら、そのときは、そのときだ。ぼくたちの身元を知らせるものは残っていない。

コンピューターもすべて破壊したから、再起不能なはずだ。ひとまず安心だな」

「それじゃ、帰ろうか」

「慎一、ぼくは、疲れた。寝るから起こすな」

 ウワンちゃんは、超能力をたくさん使ったので、疲れたので、すぐに寝てしまいました。

「貸して、あたしがウワンちゃんを抱いてあげる」

「いいよ」

「いいの。それくらい、やらせて」

 私は、慎一くんからウワンを抱き上げました。

「可愛い、もう、寝てるわ」

 私は、両手で抱いたウワンちゃんを見てそう思いました。

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