第9話 貴公子
◆
屋敷の奥のほの暗闇から、静けさの底を、そっと、爪の先で
ああ、さゆりの君。
わが宝。
どんなに、この日を、待っていたことか。
さあ、こちらへ。
ご自分の意思で、門を出ていらっしゃい。庭に入り、
……本当は怖いのだ。この屋敷に入った男たちの何人が死に、何人が正気を失ったままでいることだろう。
さあ。さあ。門を出て……。
さゆりの君。さゆりの君。
お手を。
あなたのその、白魚のようなお手を……。
さあ。
……え?
これが、さゆりの君の、手?
乾いて固い、これが?
確かに白い、でも、かさりと……。
骨?
さゆりの……、
なんぢゃ。
煙が。怪しの……。
おおっ!
さゆりの君を、妖気が包んでおる。
ぎゃ、ぎゃ、ぎゃ、
溶けとる、溶けとる、
さゆりの君が……。
女が、溶ける。
うわあっ。うわあっ。
肉が溶け、髪がちらばる。
眉がないっ。目玉が飛び出したっ。
やめてくれ、歯をひん
ぷっくりとした水けを含んだ、出盛りの桃のようだった頬は、……しゅーっと妖気を吐きだして、見る間にすぼんで……。
うわ、うわ、うわあっ。
どくろじゃあ。
寄るな。寄るなあっ。
そのような、汚らわしい身で、麿に近寄るでない。
妖気の中へ、引きずり込むな。
あっちへ行け。この、もののけめ。
者ども、弓じゃ。魔よけの
わわわっ。
骨……。妖気の散った後には、骨しか残っとらん。
骨が、動く?
うわあ。
寄・る・なーっ!
ぎゃっ。
骨が弾けた!
ぱあんと。
頭骨が、背骨が、腰の骨が。
小さい骨は、とっくに散って、
うへえ。
口に入ったぞ。
骨のかけらが、麿の口に……。
うわあ。
うわあ
うわあぁぁぁぁぁーーーーーっ!
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