第7話 白狐
◆
「
「ただのきつねではないぞ。
「きつねは、きつねじゃ。何用か」
「ちと、知りとうてのう。なにゆえ、汝は、さゆりに近づく男に
「ふん。けものにはわからぬ道理よ」
「けものの身として、知りたい。誰が誰とつごうても、かまわぬではないか」
「これだから、畜生は……。まあよい。さゆりに近づいてくるのは、ろくでもない男ばかりだからじゃ。わがめがねにかなわん。妾はただ、さゆりの幸せを願うておるのみじゃ」
「ろくでもない男でなければ、祟らぬのじゃな。さゆりに、幸を導く男であれば、汝は、引っ込むのじゃな」
「そんな男がおればな。さゆりに見合う男なぞ、おるものか」
「それじゃ、さゆりは、ずっと、独り寝か」
「妾がついておる」
「しかし、汝は……魔物に男も女もないか。じゃが、汝に、マラは、ないのう」
「こら。匂いを嗅ぐな」
「マラなくば、さゆりが、かわいそうではないか」
「そんなものなくてよい。さゆりには、わが能うる限りの幸せを授けた」
「なんじゃ、その幸せとは」
「……むかし語りじゃ。昔、
「髑髏だと? いつの話じゃ、それは」
「なに、ほんの一昔前のことよ。この身のしばし|
「そもそも、頭が痛んだことがないからな」
「単純な奴よのう。うらやましいぞ。そこへの、まだほんの子どもだった、さゆりが来たのじゃ」
「
「糸ばあさんが、連れて来たのじゃ。あの婆は、変わり者じゃった」
「霊魂と話せるのだったな。そういえば、あの婆も、妙な死に方をしたな」
「こっちを見るな。だいぶ前の話じゃ」
「だいぶ前ねえ」
「続きを聞きとうはないのか」
「おう、聞きたい。聞きたいぞよ」
「……笹を抜いてくれと、妾は頼んだ。しかし、あの婆、知らぬふりをして、通り過ぎようとする。その袖を引いて、かわいそうじゃ、気の毒じゃと言うてくれたのが、さゆりじゃ。かの女は、わが苦痛を、取り除いてくれた。お礼にな。妾はさゆりに、わが持てる限りの美を授けた」
「さすれば、さゆりの、あの美貌は……」
「おうよ。わが
「気の毒に……」
「気の毒? 何を言う。妾はさゆりに、わがあたうる限りの幸を……美を、授けた」
「うつくしいは、不幸じゃ。外見しか見てもらえんからな。魔物を助けたばかりに、気の毒な――」
「黙れ。黙れ黙れっ。さゆりは、わが造り出したるうつし世の珠、
「わからぬな」
「きつねになど、わかってもらえなくともよいわ。往ね! 往ね!」
「さゆりはな、恋をしておるぞ」
「こ、恋、だと?」
「さよう。恋じゃ」
「けものといえど、嘘は許さぬぞ」
「ほ、怖、怖。嘘と思うなら、さゆりの
「妾に内緒で……。い、いつの間に……」
「さゆりとて、魔物に報告の義務はなかろう。汝は、月のものが始まったのも、知らされなかったではないか」
「……」
「どうせ今度の男も、魔物のめがねに叶うまい。しかし、今回は、いつもと違う。なぜかわかるか?」
「わかりたくもない」
「さゆりの方から、仕掛けた恋だからじゃ」
「なに? さゆりから?」
「やはり、マラの欠けた身では、不足ということよ」
「下品な。失せろ」
「かんら、からから。かんら、からから。かんら、……」
「笑うな。きつね、失せろ!」
「かんら、からから。かんら、からから。かんら、……」
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