第5話 貴族の従者


 まったく。

 わがあるじも、物好きが過ぎる。

 色好みとか言うて通ぶっておられるが、すでに、ゲテモノの世界じゃ。


 これが、まともな貴族の家なら、それがしも、あるじの用(ふふ、ふ)のすむまで、気の利いた女房(貴人に仕えている女性)の|つぼねに入り込み、思わぬ余禄よろくにあずかれようというもの。

 しかし、あのような化け物屋敷では……。


 あるじ殿とて、見た筈じゃ。

 あの、雷の恐ろしきさま。

 あれは、雷神のたたり。

 それなのに、性懲りもなく、あの女のもとへ行かれるとは。


 なにより、同行を命じられた、わが身の不幸……。


 あっ。

 あれは…? ぴかりと。

 あの、赤松の梢に。ほら、ぴかりぴかりと。


 あるじ殿。いけませぬ。帰りましょう。

 なにやら妙でございまする。


 あるじ殿。あ、あるじどのっ!


 ああっ。

 お体がっ!

 まるで、誰かにつままれたように、空中高く……。


 誰か、だれかぁーっ。


 おお。

 お体が、くるくる回っておられる。わが頭上で、主殿のお体が、独楽こま回しのように……。


 くるくる、くるくる。

 くるくる、くるくる。


 うわあ。

 ち、千切れた。

 あるじ殿の、手が。

 足が。


 あるじどのーっ!


 なんだこれは。

 ぼたり、ぼたりと。

 上空から。


 うわっ、目に入った。

 生臭く、どす黒い、この、生温かい水は……。


 血……。

 あるじ殿の、千切れた体から落ちてきた、血。


 ふうぅぅぅぅぅーっ。

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