第2話 国司
◆
おや。どこへ行ってしまったじゃろう。
さきほどまで、
なにやらけったいな屋敷じゃな。
やたらと廊が長い上に、
自分の鼻先も見えぬわい。
今宵、儂が来ることは、糸
なんと、愛想のない……。
うわっ。
……猫か。
ああ、驚いた。
危うく踏み殺すところじゃった。
これ、そのような目で、見るでない。
暗がりで、目ばかり光りおって。
おお、気味が悪い。
いやじゃ、いやじゃ。
……。
噂では、さゆりの君は、光り輝くほどの美形とか。
それに、まだ手つかずの純真無垢。
糸のばばさまと、
ふふふ。
まったく、どのような味の良さであろうの。
これぞ、色好みの理想というもの。
そう思えば、この暗さも、屋敷の不気味さも、風情があろうというもの。
……。
しかしのう。
女の童はいなくなってしまうし、猫は出るし。
何やら、ちょっとばかり、うんざりしてきたのう。
おおっと。
足が、ぬるっと。
ありゃまあ、床板がぬるぬるするわい。
何か、こぼしたのか?
こう、暗くては、足元も見えぬ。
おう、
人の気配……?
若い女ではないな。
してみると、ここは、糸刀自の、
ちょうどよい。
この
糸殿。失礼つかまつるぞ。
おや、
向こうをむいて、うたたねか。
人を呼んでおいて、 いい気なものじゃの。
これ、糸殿。
礼を違えてはおられませぬか。
客人を回廊に置きっぱなし、しかも灯もなしときた。儂は今まで、このような非礼に出会うたことはございませぬぞ。
糸殿!
……ぴくりとも動かぬ。
年も年じゃ。よもや、ぽっくりいっておるのではあるまいな。
この年齢なら、遠慮はいらぬ。
どっこいしょ。
あれ、さっきの猫が、こんなところに。
おや、何か舐めていたようじゃ。口の周りが……。
紙燭の灯では、充分に見えぬな。
糸……ど、……。
うわあ。
うわうわ、うわあー。
く、く、く……。
くび、くび、くびが、ななな、な、な、な……。
ねこねこねこねこ!
ふふふ。
ばばさまのくび。千切れて飛んだ。
しらがの頭、遠くに
灯の陰で、にゃあにゃが、なめる。
まあるい頭の、お首の切れ目を。
うふ。うふうふ。
うふふ。
はははは、は、はははは。
あーっはっはっはっは。
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