あだし野のされこうべ

せりもも

第1話 妾(ばば様へ)

 ばばさま。大変!

 男が。

 さゆりを訪ねて、男が参りました……。


 なんと。

 ばばさまのお手引きとは。

 いったい、何をお考えです。

 さゆりは、まだ、つきのものも見ない、子どもなのですぞ。


 そう……。三月も前に。

 いえ、知りませなんだ。

 さゆりは、もう、子どもではなかったのですね。


 ええ、ええ。

 わかっております。

 すべては、さゆりの幸せの為。

 しかし。

 あの男は、あまりにひどすぎるのでは?

 だいたい、あのおつむりは、なんです。

 烏帽子えぼしが、つるつるすべっておるではありませぬか。

 ……国司こくし

 ほう、羽振りはよろしいのですね。

 しかし、年齢が、二回りほども違うておりまする。

 それに、あの、脂ぎった、赤ら顔!

 論外。

 ありゃ、ただのヒヒじゃ。


 なんですと? 別の男?

 他にも、候補はあるとおっしゃるのか。

 あの男が不実なら、床顕とこあらわし(結婚を周囲に知らせること)をせずに、別の男を通わせると……。

 そんな……。


 ばばさま。そのような……。

 確かに、ばばさまが、いつまでも、後見であられることは、叶いませぬでしょう。

 二親を早くに亡くしたは、さゆりの不幸……。

 よるべない、あわれな子です。

 だからいっそう、妾も、さゆりに幸多かれと願うておりまする。

 しかし。

 そこいらの男に、さゆりをめとらせると、おおせらるるのか?


 気にくわぬ。

 ばばさま。

 御身おんみもじゃ。

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