第20話 攻略対象外とモブ令嬢
『転生者同士仲良くしてもらわねば困る! いやこちらもエルマと接触が遅くなってしまったのが悪いとは思うのじゃがっ』
そう訴えるのは、聖霊様だった。
「聖霊様、説明してもらおうか。事と次第によっては一発殴らせて欲しい」
『説明する! するからグーパンは嫌じゃ!』
ぎゃあぎゃあそんな会話をしていると、エルマ嬢が待って! と声をあげた。
「聖霊……って、ちょっと待って? 本物? ガチ?」
『そう! 聖霊様とは我の事!』
「ドヤ顔してる場合かよ。でも本当に聖霊様本人だよ、この狐」
『狼じゃ! ……話も長くなるし、それらしいとこ見せるかの。ほれ、時間よ意のままに』
そう言うと、聖霊は手をぽんと叩いた。すると辺りがゆっくりと動きを止める。うわっ時間停止系の能力ってこんな感じなんだ、と軽く感動したけどこれはこれで怖いなとも思った。
聖霊はにっと笑って腰に手を当てる。
『さて、これで少しは信じるかの? ものすごく時間の進みが遅くなっただけじゃが』
「ほぼ止まってるようにしか見えないけど、動いてんのかコレ」
『時間は世界の運営に必要なもの。止めれば崩壊し始める、その崩壊を止める為に我が力を更に使う事になるからの。後はお前さんらふたりを指定しておけばこのように出来るという事よ!』
だからドヤ顔すんな、と思わずツッコむところでエルマ嬢が声を上げる。
「じゃ、じゃあ、本当にここはあのゲームの中って、事?」
『
「待って。聖女、リリアーネ? でもあの子は悪役じゃ」
「悪役にはならない、俺がさせない。聖霊様に言われたからじゃなく俺の意思で」
訝しむエルマ嬢に思わず睨みながら言ってしまった。エルマ嬢は眉間に皺を寄せたが、ひとつ息を吐いてから再び言葉を紡ぐ。
「リリアーネはゲームで敵だったから、先入観があるの。レオンハルト様とは幼馴染って知ってたから近付いて来たのを利用しただけだし、レオンハルト様を守れるならいいの。彼が不幸になるなら悪役のリリアーネが関係すると思ってたから……その、ごめんなさい」
「──エルマ嬢も「グレイス・ハート」が好きなんだな。俺も、すまなかった」
「え、本当に私と一緒で、前世の記憶があるの?」
『うむ。ふたりとも一緒の世界の記憶を持っておる。我が保証するぞ。しかしあの物語が好きならばリリアーネに寄り添ってくれると信じておったのじゃが……エルマにもう少し早く説明すれば良かったのう』
「だ、だって、レオンハルト様のルートもリリアーネが敵だったから」
そりゃそうだ、と思う。大筋は悪役のリリアーネとエデルに主人公トルディラと各ルートの攻略対象の戦いで、攻略対象毎の物語は道中の会話や聖女になってからの活躍の違いくらいだ。
レオンルートは幼馴染達を止められなかった罪の意識と、聖女を守る騎士としてトルディラと共に国を守るというのが主な内容。どのルートであっても幼馴染を救えないのでどうあがいても本人にとってバッドエンド、なんて言われている。
「レオンハルト様の近くにいられる騎士になって、不幸を少しでも回避したい。聖女に選ばれるのが幸せなら、それだって良いって、思って。でも知らない間にストーリーが変わって怖くなったの。もしそれでレオンハルト様に不幸が起きたらって……推しのために行動出来るって、痛い女だって思う?」
エルマ嬢は目にいっぱい涙を溜めて俺に言った。数週間前の、自分ひとりで公爵夫人を助けようとしていた俺を見ているような、不思議な気持ちになりながら俺は首を横に振った。
「俺だって似たようなもんだ。前世も物語も今の俺も、リリィのために行動するって自分から決めた。それに、聖女選定までにはレオンも俺と一緒にリリィを守って欲しいって思ってたんだ。痛いなんて言えっこない」
「あっ──黒百合隊に入ればレオンハルト様は罪の意識なんてないし、リリアーネが聖女になれば……でも、どうやって」
「分からない。レオンがクラウス達の側にいるのは親父や国王陛下達が決めたから……でも俺達が行動すれば何か変わるかもしれない。だからパルクールを教えようと思ったんだ」
「貴方は、その……パルクールの選手だったって事?」
おそるおそる聞いてくるエルマ嬢は、年相応の可愛らしい女の子のようだった。俺は思わず微笑ましくて笑いながら応える。
「いいや、俺は俳優だったよ。パルクールを学んでた、が正しい。エデルの役をとりたくて頑張ったけど、オーディションの合否の前に車に轢かれて、」
「もしかしてグハステの千秋楽で話題になってた、
「ぐ……グハステって略称になったのかアレ」
SUGO、というのは前世の俺が師匠と慕っていた先輩俳優の芸名だ。舞台グレイス・ハートではレオンハルト役が決まっていて、俺がエデル役に決まったら殺陣でこうしたい、なんて話をしていたくらいの仲だった。
エルマ嬢曰く、師匠は千秋楽の挨拶で「最後まで演じ切ったからきっと後輩も喜んでくれる」とエデル役の、俺と仲の良かった同期と泣いたらしい。
「私はもうその時病気だったけどなんとか薬で抑えながらライビュでその千秋楽見に行ったよ。半年後に悪化して死んだけど……SUGOさんカッコよかったの覚えてる」
「そりゃ師匠だからな。でも、師匠がそんな事言ってくれるなんて思わなかった」
わんころ、と茶化しながら俺を受け止めてくれた顔も気前も良い恩人。
俺にとって、師匠もヒーローだ。
「エルマ嬢、協力して欲しい。俺もレオンを救いたいし、リリィを幸せにしたい。前世も物語も
だから、俺もヒーローに近付きたい。
大切で大好きな幼馴染を、幸せにしたい。
「──エデル様、私こそお願いします。レオンハルト様とリリアーネを、一緒に守らせてください」
頭を下げるエルマ嬢。
俺は、もちろん快諾した。
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