第18話 少し見えた戦いの形

 次の日。

 俺は予定通り交流練習に出ていた。練習の監督には女性騎士・騎士団の双方から隊を率いた経験もある騎士が来ており、性差も体格も関係なく騎士を目指す見習いが入り混じって剣を極めている。


「レオン、久しぶりに打ち合おうぜ」


 俺はレオンに木剣を差し出す。レオンは近くで打ち合いをする騎士見習いを横目に、迷っているようだった。

 王子とその婚約者の騎士。そのふたりが並んでいいのかと悩んでいるように思えた。


「想定される護衛対象は腐っても婚約者同士。なら互いの力量を知り、それを基に想定される限りの戦略を練る……副団長ならそうするだろ」

「父上なら、そうだな」


 木剣を受け取ったレオンは、俺と少し距離を空けた。

 緊張する。兄貴は手加減をして俺に動き方を教えてくれると分かっているからこそ気軽に打ち合いが出来るが、ああ言った手前レオンはレオン自身にとっての全力で来るだろう。

 自分で言葉を引っ込めるのはかっこ悪いしな、と思っているとレオンが言葉を発した。


「エデル。魔法は無し、全力で打ち込む。構わないな?」

「──男に二言はねェよ、かすり傷くらい俺達は気にしない。そうだろ」


 双方、構える。レオンの構えは子爵家、いや西南の国の戦士の構えなので他の騎士とは違う威圧を放っている。が、俺も負けじと剣を構えた。

 木剣とはいえ、全力でぶつかれば打撲や骨折もありえる。だが子供のうちは小さな怪我をしてこそ。本能で、体で覚える……っていうのは親父の持論。

 俺もそれについては文句は無い。むしろ大怪我する事を避けるというのも学びのひとつだ、と前世の俺の師匠(と勝手に呼んでる知り合い)も言っていたし。


「エデル、来い!」

「応とも!」


 レオンの声を合図に、俺は間合いを詰めた。レオンは横から俺は上から木剣を打ち合い、弾かれる反動を上手く使って連撃に出るレオンの剣を、咄嗟に片手持ちに切り替えて弾く。

 想定外の方向に弾かれたレオンは驚きつつも反撃しようとしてきたのが見えたから、後ろに飛んで避けた。


「やっぱ、レオンと打ち合うの楽しいな」

「俺よりは団長達と打ち合うのが、いいんじゃないのか」

「本気で来てくんねぇの、分かってるくせに!」


 何度も間合いを詰めては離れ、を繰り返す。親父譲りの一撃に全力なスタイルの俺と西南の連撃に長けたスタイルのレオン。お互いにどう動くか分かるほどには打ち合っている。

 体力勝負、のはずだった。


「っと、あぶねっ!」


 レオンが怒涛の連撃に持ち込んで防戦一方で追い込まれた先に、木がある事に気付いた。

 頑張れば行けるかもしれない、俺は咄嗟に木に向かって駆け出す。


「敵前逃亡か、エデル!」


 俺を追いかけるレオンの声を背に、俺は木に向かって飛びついた。剣を片手に持っているから不安だったが、なんとか思った通りに足が届く。

 そして、一歩木を登ってから思いっきり斜め後ろに飛び込んでレオンを飛び越える。


「逃げるなんざ、言ってねぇよっ」


 ギリギリだった。レオンが拍子抜けしていたから出来たし、着地もよろけた。だが姿勢が低くなった事で踏み込みやすくなって背後をとり、木剣で打ち込む事で一本取る事が出来た。

 実践でこのフリップとか使うにもまだ精度が低過ぎるし、改善点を色々見つけられたのはいい事だろう。

 少し見えた戦いの形、大事にしよう。


「エデル、なんだ今の」

「えっと……まだ構想中なんだけど、実戦は障害物って結構あるだろ? レオンの氷とか俺の土壁とかを利用出来たら面白いと思って」

「筋力を上げる魔法とか使ってないのか?」

「ああ、それ使えばもう少し上の方で回転出来るかもな。まだ使ってやった事ねぇから分かんないけど」


 使ったと思われたのか、と少し落ち込みそうになる。けど、俺が思っていたような事じゃなかったらしいのはレオンの顔を見て分かった。


「──俺にも、詳しく」


 その目は「初めてパルクールを見てかっこいいと思った子供」のソレだった。きっとあの時の師匠もこんな気持ちだったんだろうなと思いながら、苦く笑った。


「教えるのはいいけど、継続的にやらねぇと身に付かないからこの合同練習の期間だけじゃ難しいぞ?」

「……練習後も時間、作れる」

「えっ、大丈夫なのか? 俺が言っといてなんだけど」

「そろそろ本腰入れて立太子に向けて勉強させるから離れる口実を作ってくれ、なんて王妃殿下に言われてるんだ。それに今回の練習は全員参加って理由で離れたが、俺以外にも大人の護衛が居るしな。あっちが俺を離したくないだけだ」


 そういうもんか? と話しつつ頭の片隅では、レオンの方が依存されてるのかと驚いていた。

 「グレイス・ハート」でのレオンは、クラウスに手を焼いている面倒見のいいクールなキャラ、という位置付けだった。それこそ王子の攻略に必要な好感度が一歩間違えると騎士のルートに行ってしまうという(しかも好感度は恋愛ゲームには珍しく確認出来ない)仕様のため、クラウスが好きというファンの一部からは嫌われていたりする。

 なお前世の姉はこれに引っかかったらしいが、推しである「聖霊教会」の司祭の息子ルートの開放が2周目からになるらしく「メインストーリーっぽいから王子狙ってたけど騎士でもいいか~」と進めたという話も思い出した。


「とにかく、俺にもエデルの体術教えてくれよ」

「なら今日最後まで残っててくれねぇか? レオンに会わせたい人がいるって話をする前に打ち合いに持って行っちまったんだけど……とにかく、それが条件って事で」

「俺に、会わせたい人?」

「そ。昨日リリィと俺が仲良くなった相手でな、レオンにも紹介しとこうかと」

「リリアーネ嬢とエデルの知り合いか。それなら俺も会いたい」


 じゃあ決まりな、とパルクール仲間になるレオンの肩を叩いた。

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