第14話 もうひとりの幼馴染
リリィと少し気まずいような照れ臭いような時間を過ごしつつ、馬車は王城に到着した。
案の定、第一王子の婚約者であり宰相の娘であるリリィの到着だというのに、クラウスもオーティスも迎えに来ない。名目上クラウスが主催なので国王陛下と妃殿下がいないのは良いとしても、だ。
なお、バルドルは出られない。元よりクラウス達から呼ばなければ参加する事は出来ない事になっている。俺のように招待客の付き添いであったりすれば入っても良いのだが、クラウス達が門前払いをするよう使用人に命じているのだ。
だからバルドルは国王陛下主催のパーティー以外で王子らしく表に出る事がない。本人は堅っ苦しいのは嫌だから嬉しいと笑っていたが、無理しているようにも見えたのは言うまでもなく。
会場へ向かう道すがら、一歩前のリリィが先程より冷たい空気を纏わせながら声をかけてきた。
「エデル、気を引き締めなさい。私の護衛だというのなら」
──私から離れないでね、エデル。
「心得ております、リリアーネ」
──心配すんなよ、リリィ。
そう、と言葉にしたリリィは少しだけ安堵したように見えた。
公爵家でのパーティーや親しい俺の前では優しく可愛らしい本来の彼女だが、第一王子の婚約者でありこのままであれば王族に連なるご令嬢としての彼女は威厳を身につけているためか冷たい印象を受けてしまう。内面を悟られない演技だと分かっていれば、彼女の言いたい事が分かるし返すべき言葉遣いも分かる。
まぁ、少し前の俺だったら理解するのに時間がかかってぎこちなくなっていたが、これは演者を目指していた前世の俺の努力の賜物といったところだろう。
「──第一王子殿下のご婚約者リリアーネ・アインホルン公爵令嬢様、ならびにエデル・キルシュネライト伯爵令息様、ご到着です」
そんな声と共に会場に入る。
謁見の間と今夜の舞踏会が行われる大広間は大人や他国の要人が出るような会が開かれるが、今回のような国内貴族の子供のみで開かれるパーティーや妃殿下主催のお茶会の時は庭園と地続きになった広間が会場だ。
冬でも土魔法で草木に必要な栄養が行き届いていたり、魔法を駆使した改良を繰り返して通年咲かせる品種の花が庭園を占めているから、雪を被った薔薇なんて前世の俺からしたら変な気持ちだったりする。
「──リリアーネ、遅かったじゃないか。オレより偉くなったつもりか?」
嫌味ったらしい、リリィを馬鹿にするような声。
この国第一王子でありリリィの名義上の婚約者、クラウスだ。その後ろには同じ金髪につり目の兄と違って横にこぼれ落ちそうなくらいの垂れ目の弟、オーティスがいやらしく笑っている。
第一、遅れるも何もここはお前の家だろ。それに主催者としては早くから準備するのは当たり前だし、リリィは予定到着時刻ぴったりだ。本気でただ揶揄いたいだけの哀れな──「腐れ縁」だ。
「申し訳ございません、クラウス殿下。オーティス殿下もご一緒なのですね」
「オレだってお前が出るような粗末な会に出たくないけど、兄上が出るなら出なきゃだろ?」
おい、主催はリリィじゃねぇぞ。その兄上とリリィだぞ。それは兄も下に見てると捉えていいか?
「はぁ……やめとけふたりとも。くだらない言い合いで時間を無駄にする方が無意味だ。それにリリアーネ嬢は王城に住んでる訳でもないからお前より遅くここに着くのは前から分かってるだろ」
「なんだとレオン。お前な」
「──レオンハルト様、ご機嫌よう。お茶会の流れの確認をしたいの。名簿も最終確認をしなくてはね」
リリィは令嬢らしい笑みをたたえてレオンハルトにそう告げた。
レオンハルトはこちらに視線を合わせてきたので、リリィを休憩させろ、と目で訴えてやる。
「かしこまりました、用意しますので別室でお休みになってお待ちください」
「ええ、お待ちしております。エデル、行きましょ」
そう言われて俺はその後についていく。まるで犬のようだな、なんてクラウスに言われても会釈だけして。
会場の休憩室に通された俺達は用意された紅茶を飲みながら待っていると、レオンハルトが資料を手に入ってきた。
「──あンのバカクソ王子!」
と、悪態をつきながら。
「レオン、声抑えとけよ」
「心得ている。だが少しくらいは毒を吐かさせてくれ」
「いいじゃない、エデル。レオンは私達の幼馴染だもの」
ふわりといつもの顔で笑うリリィにまで言われては元も子もない。
そうレオン──レオンハルト・シュヴァルツはあのロイス副団長の長男で、キルシュネライト伯爵家経由でアインホルン公爵家もシュヴァルツ子爵家と交流がある。
つまりは同い年のもうひとりの幼馴染、といったところだ。
「あんな王子ふたりも面倒見なきゃいけないって事には、まぁ、ご愁傷様としか?」
「お前本当にエデルか? 少し前のお前なら振り回されてやんのーとか言ってたろ」
「んな事言ってねぇよ!」
流石にそこまで言った覚えはない、まぁ頭打ったから忘れた可能性も無くはないけど、ゲームの俺もそんな子供だった覚えは無いって否定してるからな! シナリオ書いた人が考えていたかとかは知りません!
と、思っていると、レオンは母親似アイスブルーの瞳を歪ませた。
「冗談だ。お前が頭打ったりリリアーネ嬢の家の事とか、色々あったからな……直接会うのは半年ぶりだろ?」
心配だったんだぞこれでも、と父親似の笑顔で辛そうにそう言葉を紡いだ。
──レオンは、クラウスの護衛になったためにリリィと俺と疎遠になってしまったから、なんとなく引け目を感じている、ようだった。
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