第12話 こんなところでくすぶっていられない(別視点)
「やぁねぇ。宰相様の奥さんが事故に遭われたのですって」
新聞を読みながら頬に手を添えてやだやだとため息を吐くお母さん。に、私もため息で返した。
「いつまで新聞読んでるのよお母さん。別にこっちとあんま関係のない事でしょ」
「まぁこの子ったら。年明けたら王都に行くんだからこういう事件ぐらい知っておいた方がいいんじゃないのかしら?」
「どこで使えってのよその知識」
てか、それ知ってるんだよねぇ。あんまり良い話題じゃないし、宰相って事はあの子の事だし。
あんまり悪い子じゃなかったみたいだけど、事故がきっかけで闇堕ちするんだったはずだし……あーやだやだ。
「そんな、わざわざ宰相様の奥様亡くなられてお辛いですねぇ、って話しないでしょ」
すると、お母さんは驚いた顔で私を見た。
「やだ! 宰相様の奥様は大きな怪我をなさったのよ! ほらやっぱり新聞でちゃんと情報収集なさいな、もうっ」
「──え、怪我?」
私はお母さんに押し付けられた新聞を開いて、記事を読んだ。
「昨晩、宰相夫人であるアインホルン公爵夫人を乗せた馬車が王都へ向かう街道にて賊に襲撃された。死者はなく、護衛に当たっていた騎士団により救出された公爵夫人は大きな怪我はなさったものの命に別状は無かった模様。取り押さえられた賊の処罰や事件の全容が騎士団より判明次第、我が新聞社でも続報をお知らせする……?!」
「ああもう、本当に話を振られたら貴女、浮いてたわよ! 不敬だなんて言われてたかもしれないわ! しっかりなさいな」
ありえない。私はそう思った。
だってここは「グレイス・ハート」の世界で、外伝の話だったとしてもこの展開は変わらないはずで。
(一体、どういう事?)
私は「グレイス・ハート」をやり込んだひとりだ。なんなら、二次創作の資料としてゲームを起動してすぐ欲しい場面を取り出せるくらいにはやっていた。
「グレイス・ハート」に没頭している間は辛い事も嫌な事も忘れられたから他人より思い入れがあったのかもしれないけど、それくらい大好きだったし私にとっては人生を彩ってくれた恩のある作品だ。
だからこの展開は忘れるはずもない。リリアーネという女の子が、嘆き悲しむこの展開を。この話が根底にあって「グレイス・ハート」が動くのだから。
「お、お母さん! この新聞借りても良い?」
「良いけど、ちゃんと返してね? まだ読み終わってないんだから」
「お昼までには返すわ!」
私は慌てて部屋に新聞を持って行った。
部屋に着いて机から取り出したのは魔法でロックされたノート。私が「グレイス・ハート」の流れを忘れないようにと小さい頃に書き出した日記。
──間違いない、リリアーネのお母さんはここで死ぬはずだった。
「シナリオが変わってるとでも言うの……? でも私は何もしていないし、何もしない代わりにあの方の傍にって思って行動しただけなのに」
冷や汗が背中を伝う。
もしかして、その行動が引き金になってしまったのかもしれない。
それか、私以外にも「グレイス・ハート」を知っている人がいる──?
「こんなところでくすぶっていられない、早く、確かめなくっちゃ……」
このままリリアーネがヒロインに勝つなんて事があったら、あの方はどうなってしまうの?
あの方が不幸になるのはなんとしても避けたい。
──私は日記の新しいページに、ペンを走らせた。
「情報を、集めなきゃ」
あの方の死亡ルートなんて、させない!
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