第15話 先輩? 欲しいなら、私のそれあげるよ♡

 火曜日の放課後。

 貴志湊きし/みなとは、学校から数分程度歩いた場所にあるランニング場に到着していた。


 今日の練習は昨日、宮原世那みやはら/せな先輩と一緒に考え、事前に決めていたのだ。

 その甲斐もあって、無駄なく練習に取り組めることだろう。


 今後は湊がスケジュールを管理することになる。

 もう少し、自分で計画を立てられるようにしようと思う。


 湊はランニング場を見渡す。

 トラックには、ランニング専用のTシャツとスパッツに着替え終えた石黒楓音いしぐろ/かのんがいた。


「……私よりも早くに教室を出たのに、遅いんじゃない?」


 走っていた彼女は、湊の姿が見えるなり、不機嫌そうな顔を見せ、近づいてきたのだ。


「練習内容を書いたスケジュール表を先生に見せてから、ここまで来たからさ」

「そう。練習表を作ったのね……」


 楓音はあまり顔を合わせてはくれなかった。


「どうしたの?」

「な、なんでもないし。というか、その練習表を貸しなさい」


 楓音は頬を紅葉させている。彼女は湊が手にしている用紙を奪うように手にすると、まじまじと見ていた。


「そう……今日はこんな感じね。湊にしては、上出来じゃない。別に、褒めているとか、そんなんじゃないからね。言っておくけど」

「わかってるから」

「だったら、いいけど……」


 楓音は不機嫌そうな顔を見せ、軽く睨んでくる。

 教室にいる時も、そこまで明るい感じではなかった。どちらかといえば、授業中、眠たそうな顔を見せることが多かったのだ。


 夜中までバイトみたいなことをしているからだろう。

 そんなに大変なら、もう少し楽なバイトにすればいいのにと思った。




「なに、その顔」

「へ?」


 突然、彼女から問われ、驚いた感じに、湊は素っ頓狂な声を出す。


「なに、じろじろ見てんの」

「いや、そういうつもりじゃないから」

「……」


 楓音は、ジーッと、湊を見ている。


「他に、何も言うことなんでしょ?」

「まあ、そうだね」

「じゃあ、私、走ってくるから」

「ちょっと待って」

「なに?」

「他の部員は?」

「あっちの方で、着替えていると思うけど」


 彼女は、ランニング場近くにある小さな建物を示す。


「着替えてるのか」

「でも、勝手に開けない方がいいんじゃない。まあ、変態なら、止めはしないけどね」

「俺は別にさ、変態じゃないし」

「そう? でも、この前、勝手に開けたじゃない」

「それは……間違いだったっていうか。タイミングが悪かったんだよ」

「まあ、いいわ。あとは任せるわ」


 楓音は、ぶっきら棒に言い、手に持っていた練習表を、湊の胸に押し付けてくる。


「大体の流れはわかったわ。その表は、他の二人にも見せてあげれば」

「世那先輩には昨日見せたし……ん? 二人?」

「あれ? あんた知らないの? 弓弦葉は今日、休みよ」

「休みなの? どうして?」

「どうしてって、家庭の事情で急遽帰るって、学校の昇降口でバッタリと出会った時、そんなことを言っていから」

「そうなんだ」

「じゃ、後はよろしくね、変態」

「俺は変態じゃ……」


 言い返そうとしたが、楓音は背を向け、トラックの方へ向かっていった。


 湊はしょうがないと溜息を吐き、一旦、他の二人がいる建物の方へ向かうことにしたのだ。






「じゃ、走るか」

「そうですね。湊先輩が、今日の練習内容を決めたんですよね?」

「ああ。これで、先生がいなくても、今のところ、何とかなりそうだな」


 湊が着替えするための建物に到着した頃合い。世那先輩と、高井紬たかい/つむぎが会話をしながら扉から出てくる。

 湊は二人とバッタリと出会った。


「あれ? 湊先輩、ここまで来てどうしたんです? もしかして、覗きとか?」

「違うから……」


 あと少し早くに到達していたら、着替え姿を目撃できたかもしれない。

 見たいけど、以前のように疚しい気分になるのも嫌だった。


 むしろ、彼女らが着替えした後でよかったのかもしれない。


 湊は二人の方を見、様子を伺う。


「そろそろ、練習するけど。湊も早く着替えておきなよ」

「はい」


 湊は二人と入れ替わるように、建物の中に入ろうとした。


「湊先輩、私も一緒に着替えましょうか?」

「いいよ。というか、もう着替えてるじゃんか」

「でも、湊先輩が望むならね」


 紬は意味深な話し方をし、Tシャツからハッキリと浮き出ている爆乳を触っていた。

 デカさゆえ、少しでも揺れるだけで、波打つほどの動きを鑑賞できる。


「俺、一人で着替えるから」


 湊は建物の入り口に入るなり、すぐさま扉を閉めた。


「いや、紬と一緒に着替えるとか、さすがに色々問題があるだろ……」


 湊は一人っきりの空間で、呟くのだった。




「一先ず、着替えるか」


 湊は着替えることにした。


 パッと見た感じ、周りには、ロッカーが数台ほど設置されている。

 二階もあるのだが、そっちの方は、二十畳ほどの休憩所になっているのだ。


 今、二階に行く必要性はないと思い、自分専用のロッカー前へと向かう。

 その途中、あるものが視界に入った。


「ん? これって……布?」


 ロッカー近くにベンチに、ハンカチのようなものがあった。

 誰かが置き忘れたのかと思い、一度手に取ってみる。


「ハンカチとか、タオルだったら、後で渡しておかないと……え?」


 広げてみると、確実に違う。


「って、こ、これ、パンツ? な、なんで、ここに?」


 水玉模様のパンツであり、多分、楓音のではないと思う。

 また、パンツを手にしているところを目撃されたら、今度こそ終わる。

 湊は辺りをキョロキョロと焦った感じに見やった。


 誰もいないよな……。

 湊はホッと胸を撫でおろす。


「……さっき、着替えていたのは、世那先輩と紬しかいなかったし」


 世那先輩のモノなのか?

 けど、見た目的に先輩のモノではない。

 そんな気がした。


「じゃあ、紬のか?」

「そうだよ♡」

「……え⁉」


 湊は背中に感じる、柔らかい膨らみを感じつつ、体をビクつかせた。


 ど、どういうこと⁉


 何かと思い、少しだけ顔を後ろに向けると、確実に誰かが後ろにいる。むしろ、抱き付かれているのだ。

 爆乳を湊の背中に押し付けながら――


「当たりだよ、湊先輩?」

「どうして? どうやって入った?」

「私、鍵持ってるので、開けちゃった♡」

「だからって、勝手に」

「でも、いいじゃん。湊先輩が欲しいなら、それあげるよ」

「後々ヤバそうだし、受け取れないから」

「私、予備としてもう一つあるし、遠慮しないでね♡」


 背後から甘ったるい感じの声が聞こえ、湊はひたすら、背中に当たる爆乳に、胸の内をドキドキさせていた。


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