夕陽と電話

めいと別れて、自転車で帰った俺は、キッチンに置かれた伸びすぎたラーメンを見つめていた。


捨てよう。シンクにいれた。


冷蔵庫から、ビールを取り出した。


今日から三日間休みだった。


5年前俺は、フリーターになった。


なぜか、急に働くのがとてつもなく馬鹿らしくなったのだ。


自分だけの人生ならば楽しく生きて、休みは多い方がいい。


それが、俺が選んだ道だった。


ビールを飲み干して、寝転がった。


桜賀おうがさんに、愛された。


夕陽として、俺は…。


夕陽って、真面目に働いてんのかな?


プルルル


やべ、かけちまった。


切る、切る、切る


「はい」


ツー、ツー、ツー


間に合ったかな?


リリリーン


いたっ


ビックリして、スマホがおでこに落ちた。


「もしもし」


『間違ったのか?』


「あー。悪い」


『あっそ』


「みんな、元気?」


『元気だよ』


「それは、よかった」


『ああ。で、何か用だったんだろ?』


「夕陽が、元気かなーって」


『それだけ?両親が気になった?それとも、3人目妊娠中だって報告した方がよかったか?』


「桜賀さん、覚えてるか?」


『ああ、桜賀ね。それが?』


「もう何とも思ってないのか?」


『何を思うの?とっくに終ったから…。なんなら、お前にやるよ。あいつ、まだ俺が好きなの?20年だよ。ありえないだろ』


「よく、そんな酷い事言えるな」


『ハハ、説教電話か?別れ話した日、お前聞いてたよな?俺が、どんだけ桜賀に酷い事言ったかわかってるよな?あれが、答えだよ。なんなら、電話してやろうか?店の番号まだわかるから、朝陽を愛せて言ってやろうか?』


「夕陽、俺が夕陽を兄貴って呼ばなくなった理由わかるよな?そのクズみたいな性格だよ。なんで、直らないんだよ」


『直さなくても、一華いちかは、俺を愛してくれてる。朝陽、いい加減に桜賀忘れたら。どうせうまくいったってお前は所詮、俺のかわりだろ?やめとけよ。まあ、朝陽が幸せになろうがなるまいが、家族全員興味ないけどな』


「わかってる。じゃあ」


『お祝い待ってるよ!産まれたらメールするから』


そう言って、電話が切れた。


もう一本ビール飲もう。


プシュ…。


相変わらずクズだったな。


10年前ー


「俺、結婚すんの」


「おめでとう」


「朝陽、置いて一華の実家にみんなで、住むから」


「なんで、俺だけ」


「はー。わかってないね。こんなクズみたいな会社に働いてる弟はいらないわけ。後、ゲイとかキモいのわかる?」


「兄貴だって、そうだったろ?」


「あー。あれ?あれは、試したかっただけだよ。だから、ちゃんと別れただろ。正直、朝陽が幸せになろうがなるまいが俺達家族はどうでもいいの。わかる?母さんも、朝陽がゲイだから気持ち悪いってさ。父さんなんか、会社の人も連れてこれないって。俺は、ただの興味本意。お前のは、マジなやつ。ないから、ないない」


そう言って、右手を大きく振って俺を嘲笑った。


もう二度と、夕陽あいつを兄貴って呼ばないと誓った。


三人目か、やる事だけはやってんな。


桜賀さんは、俺を夕陽のかわりにした。


嬉しくなかった。


あんなのと同じにされた事が、堪らなく嫌なのに…。


どうして、あの人の望みを叶えたくなるのだろうか


惚れてるって、負けてるって意味じゃないか?


命と話したい。


俺は、ちゃんと捨てきれなかったんだ。


また、涙が流れてきた。


夕陽は、桜賀さんの一年ちょっとを奪ったくせに…


自分は、平気な顔して幸せになってる。


あの人は、あんな顔をして夕陽を求めていたのに


夕陽は、何の痛みも感じないのかよ。


バキバキって、ビールの缶を泣きながら凹ませていた。


俺を愛してよ


あんな、クズは忘れてくれよ。


お願いだよ

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